酒を飲むと気分がほぐれて、ちょっと楽しくなる。必要不可欠ではないが、人生を豊かにするものの1つだ。しかし一方で、体に害を及ぼす面もある。“わかっちゃいるけどつい…”という悩ましさもまた酒の魅力。
そして、年齢的な側面もあるだろう。高齢者の取材をしているなかで「おいしい酒が飲みたいな」という声を聞くことが多いのも事実。しかし、家族としては老親の体を案じて「控えた方がいいに違いない」と思ってしまうことだろう。
そこで、年末年始、老親と“いい酒”を楽しめるよう、久里浜医療センター副院長の松下幸生さんに酒の正しい知識と上手なつきあい方を聞いた。
◆加齢によって酒の影響が早く強く出やすくなる
酒の影響としてわかりやすいのは“酔い”だろう。心地よい気分になると、ついどんどん飲んでしまう。
「酔いは酒の主成分、アルコールによる脳への影響です。脳の表面から奥へと徐々に、神経の働きを抑えるように作用します」と言う松下さん。
血中アルコールが低濃度の段階では、まず理性や知的活動を司る大脳新皮質の働きが抑えられるという。
「日頃の緊張が解けて朗らかになり、普段無口な人が話しやすくなったり。楽しい気分のほろ酔い加減。理性で抑えられていた大脳辺縁系の感情や本能が表出し、大胆になったりもします。また血流がよくなって体が温かくなり、神経痛が楽になるという人もいます」
だが、ここを少し超えると、いろいろな悪影響が出始める。
「アルコール濃度が増し、平衡感覚や運動調節機能を担当する小脳が麻痺すれば、まっすぐ歩けず千鳥足になったり、ろれつが回らなくなったり。さらに呼吸や循環などの基本的な生命活動を司る脳幹、延髄まで麻痺すると、死に至ることもあり得ます」
アルコールが肝臓で分解される時、頭痛や二日酔いの原因であり、発がん性も指摘されているアセトアルデヒドが産生。慢性的に過剰飲酒をすれば脂肪肝やアルコール性肝炎、肝硬変などのリスクが上がることもよく知られている。
これらの体への影響の出方は個人差が大きいが、高齢者は一様に影響が出やすいそう。
「年を重ねると体内の水分量がどんどん減っていきます。アルコールは水によく溶けるので、体内の水分量が少ないほど血中アルコール濃度は濃くなるわけです。若い頃と飲む量が変わらなくても、早く酔ったり失禁してしまったりと、影響が早く強く出るようになります。怖いのは酔って転倒するリスク。たまに飲む少量の酒でも注意が必要です」
高齢になると生活環境が変わり、酒好きな人が日中から飲んだり孤独感を酒で紛らわしたりするうちに、依存症などの問題を抱えることもあるという。家族はそんなリスクも知っておくべきだろう。
※女性セブン2020年1月1日号