2019年、歴史研究の世界では従来の通説を覆すほどの重要な新発見が相次いだ。歴史作家の島崎晋氏が厳選した「重大ニュース」日本史編をお届けする。
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◆紀元前から文字を使用? 弥生時代の硯(すずり)発見
日本で確認されている最古の文字の使用例は、埼玉県の稲荷山古墳で見つかった古墳時代中期(5世紀頃)のものと見られる鉄剣だ。3世紀の土器などにも文字の刻まれたものが確認されているが、漢字の「田」や「大」と読める字が1文字あるだけなので、記号としての使用と考えられてきた。
ところが8月、弥生時代を専門とする柳田康雄・國學院大学客員教授が、九州北部を中心に西日本各地から出土し、これまで砥石と目されてきた石を精査した結果、すり減りの状態や黒い付着物の残滓から130点を硯と特定。そのうち5点は紀元前100年頃までさかのぼるとの見解を示した。
日本最古の墨書は奈良県桜井市の上之宮遺跡から出土した木簡で、7世紀前半のものと見られている。今回、紀元前の硯が発見されたということは、(文字が使用された確たる証拠とまではいかないが)文字の書ける条件が備わっていたことを示す。それだけでも大きな発見だ。
◆富山県立山の民家で発見された江戸時代の“天狗の骨”
7月、富山県立山町岩峅寺の民家で、天狗のものと伝えられる骨が見つかり、8月に立山博物館で開催された特別企画展「立山ふしぎ大発見!?」において一般公開された。
発見された場所は、かつて宿坊であった部屋の神棚の奥。小さな祠に納められていた箱には「天狗頭蓋骨」「天狗頭鼻」と記され、その中から見つかったのが全長28センチ、幅は最大14センチの頭蓋骨だった。
同博物館の調査によれば、その骨はイルカの頭蓋骨に手を加えたもので、江戸時代の修験者が布教の道具として用いたのではないかとのこと。そもそも立山は富士山や白山と並ぶ「日本三霊山」として山岳信仰の対象であった。霊験あらたかであることを世間に広めるには物証が一番のため、“天狗の骨”が偽造されたものと考えられる。
◆信長、秀吉、足利2代将軍義詮らの「直筆書状」見つかる
歴史上の著名人の直筆はそれだけで価値がある。一点見つかるだけで大ニュースだが、11月には同じ場所から見つかった書状のうち何と5点が実物で、なおかつそのうち3点が日本史上の重要な出来事を記した貴重な史料であることがわかった。
書状を所蔵していたのは愛知県豊橋市の羽田八幡宮。豊橋市図書館などからなる調査グループが文化財に指定するかどうかの鑑定を進めていた過程で、真贋が明らかになった。
3点の直筆書状の書き手は織田信長と豊臣秀吉、室町幕府の2代将軍・足利義詮の3人。このなかで「もっとも歴史的価値が高い」とされたのが足利義詮の書状だ。これまで初代将軍足利尊氏と南北朝時代を終わらせた3代将軍義満の間に挟まれて影が薄く、“つなぎ程度”にしか思われていなかった義詮だが、今回の発見をきっかけに再評価の動きが活発化しそうである。