2020年度の大学入学共通テストへの導入が検討されていた、英語試験における民間試験導入が延期となったのは記憶に新しい。検討されたのは英検やIELTS 、TOEFLなど、学生や社会人にとってポピュラーな検定やテスト。リスニングとリーディングの評価指標としてのTOEIC(L&R)もその一つだった(7月に撤退を発表)。
そんななか、12月15日に実施されたTOEICの試験(第246回)では、異様な光景が見られた。ある都内の試験会場で大量の欠席が出ていたというのだ。
「山手線の内側という好立地で地下鉄の駅からも近い人気会場ですが、行ってみたら空席が多くて驚きました。若者がとくに少なくて不思議な感じでした」(過去8回の受験歴がある30代受験者)
会場では定員81人のある教室で受験者が54人、他の教室でも定員36人のところに29人、定員28人のところに19人と、複数の教室で軒並み3割ほどの欠席者が出ていたという。他の都内の会場でも欠席が多かったとの証言がある。
TOEICを運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)の広報室は「出席しなかった人数は公表はしていません。お仕事の都合などさまざまな理由で欠席される方がいると思いますが、ご都合で受験が難しそうな方には、会場の変更を受け付けております」と話す。会場は受験者が選ぶことはできず指定されるが、急な出張が入ったなどの理由で別の場所でなら受けられる場合、変更可能とのことだ。ただし、キャンセルはできない。
この日の“ドタキャン率”は不明だが、少なくとも一部の会場で欠席が多かった背景には何があるのか。教育ジャーナリストの川口昌人氏が言う。
「民間試験導入がどうなる分からないなかで、受験に必要になる可能性を考え“漠然と”さまざまな試験に申し込んだ高校生が相当数いたと考えられます。導入延期を受けて大量ドタキャンが出ているのではないでしょうか。英語が得意なごく一部の生徒を除くと、大多数の中高生はもともと民間試験への意欲が高かったわけではないからです」
そうだとすれば、TOEIC自体も国の政策に振り回されたことになる。TOEICは1979年に初回が実施された、「日常生活やグローバルビジネスにおける活きた英語の力を測定する世界共通のテスト」(IIBCの「ガイド」より)だ。受験者数(団体特別受験制度を除く)はここ数年横ばいだが、直近で121万人(2018年度)いる。
TOEICにはスピーキング能力を測るテスト(S&W)もあり、それを含め再び民間試験導入の可能性があるが、文部科学省の高等教育局に尋ねると「どのように検定・テストを評価するかも含め、導入はゼロから再検討していきます」と答える。
受験生は今後も振り回されることになるかもしれない。