イラストレーターのみうらじゅん氏は、『男はつらいよ』シリーズで忘れられないマドンナとして、第10作『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(1972年、監督/山田洋次)に幼馴染みの美容師・千代役として出演した故八千草薫さんをあげている。独自の寅さん説を唱えるみうら氏に、忘れられぬマドンナ・千代の思い出と、寅さんと恋について聞いた。
【あらすじ】寅次郎は柴又で再会した美しい幼馴染みの千代が離婚して独り身だと知り、有頂天に。だが、とらやに下宿中の大学の助教授も千代に惚れたことを知り、その思いを千代に伝える。すると、寅次郎からの告白と勘違いした千代は喜び、受け入れようとするが……。
* * *
初めて「男はつらいよ」を観たのが1972年、中学2年のときで、たまたま八千草薫さんがマドンナの作品でした。併映はドリフターズの『舞妓はんだよ 全員集合!!』だったこともよく覚えています。初見の寅さんは恋敵である大学の先生にマドンナを譲るところにグッとくる男気を感じましたね。その後、公開のたびに観に行くようになると、寅さんが意外にカッコイイことに気づきました。トラベルでトラブルを起こし、男気あり、哀愁あり、生まれ育ちにハングリーありで、これってロックンローラーじゃないか、とね。
僕にとってほとんどのマドンナは当時、年上の熟女なので、自分も好きになるような対象ではありませんでした。でも、この作品の千代は幼馴染みという設定なので、近しい存在に感じたのでしょう。そもそも僕にとって初マドンナですから、初めての女性みたいなものです。しかも、八千草さんはあの可愛らしさですから。