高齢化が進む日本社会、誰もが「若返りたい」と考え、健康なままでの高齢期を過ごしたいと願っているだろう。そんななかで、若返るためのさまざまな技術に注目が集まっているのだ。
◆遺伝子の時計を巻き戻せる可能性
「若い血」によって若返ると聞くと、まるでホラー映画のような話だが、じつはマウス実験では実証されている。
米ハーバード大幹細胞研究所の研究チームは、遺伝的に同系の老いたマウスと若いマウスの脇腹の皮膚を縫い合わせ、互いの血管を結合させた。すると、老いたマウスには筋肉量の増加や嗅覚の回復など、あらゆる若返り効果が表れた。順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学教授で日本抗加齢医学会理事長の堀江重郎さんはこう話す。
「この実験からは3つの可能性が考えられます。まず血液中の幹細胞による作用、次に、何か特定の分子による作用、そしてホルモンバランスの働きです。もちろん人間では不可能な実験ですが、もしも自分のクローン人間がいたとしたら、血液をもらって若返りは可能ということです」
こうなるとSFのような話だが、もっと現実的に検討が進んでいる研究もある。前述のマウス研究のキーワードの1つでもある「ホルモン」が、「エピジェネティクス」という遺伝子の働きを調整する仕組みに関与するというのだ。
「各臓器の細胞には決まったエピジェネティクスのパターンがあります。そのパターンは加齢に伴い一定の変化を起こすので、年齢がわかる。それを『エピジェネティクス時計(クロック)』といいます。実際の年齢よりエピジェネティクス時計の年齢の方が若ければ長生きするとされており、最近、この時計を巻き戻すことが可能だとわかってきたのです」(堀江さん)
米国で行われた小規模な試験ではあるが、男性ホルモンの一種と成長ホルモン、糖尿病の薬を摂取した数名の男性のエピジェネティクス時計の年齢が実年齢より若返ったというのだ。
男性ホルモンに関しては、その一種「テストステロン」が、女性を若々しくするためにも有効だとして見直されている。
「男性ホルモンは決して男性だけのものではなく、実は女性にとっても、女性ホルモンの10倍も分泌されている基本的なホルモンです。テストステロンが多い方が乳がんや骨粗しょう症のリスク低下につながることもわかっています。筋肉の減少、頻尿、口の乾きといった閉経後の症状も、テストステロン値が高くなれば改善します。さらに、テロメアを伸ばす働きもある」(堀江さん)
欧米や台湾、韓国をはじめ、ほとんどの先進国でホルモン療法が盛んに行われているにもかかわらず、日本では著しく遅れている。その背景には、男性ホルモンが減少する定年後には隠居するのが一般的という日本独自の考え方があるからだというが、高齢になっても自立が求められるこれからの時代を考慮すると、変化の時だろう。
※女性セブン2020年1月2・9日号