人間の体細胞から人工的に作り出す「iPS細胞」は、多種多様な細胞に分化できる優れた能力をもつ「多能性幹細胞」である。
これと似たもので、「ES細胞」という言葉も耳にしたことがあるかもしれない。ES細胞は、受精後の「人の生命の萌芽」である「胚」から作り出す。iPS細胞と同じく多能性幹細胞で、ほぼ無限に増殖できるが、倫理的観点の問題を抱える。
いずれも再生医療への応用が期待されている幹細胞だが、そこへ、“第3のチャレンジャー”とも呼べるものが注目を浴びている。「エクソソーム」だ。
エクソソームは、細胞から分泌される小型カプセルのようなもので、だ液、血液、尿、髄液、羊水など、ほとんどの体液中に存在し、体細胞に由来する幹細胞から採り出すことができる。いわば“天然素材”だ。
離れた細胞や組織に情報を伝えることで、免疫的な応答や組織の修復、神経情報の伝達などの「メッセンジャー」的役割を担っていることが2007年にスウェーデンの科学者ヤン・ロトバル氏によって発見された。
その医学への応用の可能性は幅広い。たとえば、がん細胞もこのエクソソームを分泌しており、そこに含まれた情報を読み解くことで、がんの早期発見や病状などを知ることができるという。
このエクソソームを利用した「若返り」に臨床で取り組んでいる銀座ソラリアクリニック特別顧問で医学博士の古賀祥嗣さんは、乳歯の歯髄に含まれるエクソソームに着目。
「乳歯が生え変わる6~12才頃の脳は爆発的に成長しますが、噛む動作をするたびに乳歯にある歯髄からエクソソームが分泌され、それが脳に浸潤していくためと考えられます。大人の歯の歯髄からもエクソソームを採り出してみましたが、乳歯と比べて圧倒的に量や質が劣っていました」(古賀さん)
古賀さんのクリニックでは、乳歯の歯髄にある幹細胞からエクソソームを採り出し、現在は美容分野を中心に応用している。