「認知症」という言葉を聞くだけで、恐れをなす人は多い。根治する治療法がないといわれていることもあるが、なんと言っても認知機能(記憶、思考、理解、言語、判断など)が低下して、身近な家族でもどう対応してよいかわからなくなるのが怖いのだ。
そんな状況の情報を集めて科学的に分析し、より有効な対応策を探すためのツールが『認知症ちえのわnet』(高知大学、大阪大学、東京医療保健大学による共同運営)だ。研究代表の高知大学医学部教授、數井裕光さんに聞いた。
◆つらいBPSDは対応次第で治せる
認知症になるとさまざまな症状が現れるが、注意深く見ていくと2種類ある。
1つは、脳の神経細胞の死滅や機能低下で直接的に起こる中核症状。物忘れ、自分のいる場所や時間がわからない、計画的に実行できない、言語障害、日常動作ができないなどもこれ。認知症になると誰にでも現れる。
もう1つは、本人が置かれている環境や人間関係、性格などに影響されて起きる、行動・心理症状(BPSD)。拒否、幻覚、妄想、易怒性、不安、暴言、興奮、抑うつ、徘徊など、現れ方は人それぞれだが、本人の生活の質を低下させ、周囲の人を困らせるのは、主にこのBPSDだ。
「認知症の人は認知機能が低下する中で、なんとか日常生活を送ろうともがき、それがうまくいかないと現れるのがBPSDといえます。
認知機能の障害は今のところ治療法がありませんが、BPSDは治せるのです。これはぜひ知っておいてほしい」と言う數井さん。
一般的に“認知症は治らない”といわれるが、丁寧に症状を見極め、治る部分はしっかり治すことが大切なのだ。
「BPSDの治療の基本は、家族など周囲の人の“適切な対応”です。周りの接し方によって本人が安心して落ち着けばBPSDは改善しますし、もちろんその逆もあります」
家族が認知症になり、その不可解な言動に接すれば、動揺するのも無理からぬこと。でも冷静になって適切に対応することで“治療”になると思えば、希望が持てる。
◆より有効な対応策を探せる「認知症ちえのわnet」