南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督を歴任した野村克也氏(84)。今季はかつて指導したことのある5人が監督としてチームを率いることとなった(ヤクルト・高津臣吾、楽天・三木肇、阪神・矢野燿大、西武・辻発彦、侍ジャパン・稲葉篤紀の各氏)。ここでは、西武の辻監督について、野村氏が語る。
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2年連続リーグ優勝の実績が証明するように、辻は野球をよく知っている。私の教え子の中だけでなく、現役監督では一番だと思う。
1987年の西武-巨人の日本シリーズで、中前打を処理するクロマティの怠慢プレーを衝いて、一塁から一気にホームインしたプレーは有名だが、1996年ヤクルトに移籍してきた辻に聞くとベースコーチではなく、自分の判断だったそうだ。しかも、サードベース付近でわざとスピードを落とし、クロマティを油断させたというから大したものだ。
強力打線を持っていることもプラスに働く。私は最下位のチーム専門だったから、奇策や奇襲を多用した。だが、巨人V9時代の川上哲治さんは正攻法で戦った。強い巨人には奇策や奇襲が必要なかったからだ。当時の巨人に適した采配で選手の信頼を得た川上さんのように、辻もチームに合った采配で信頼を得ているのではないか。
内野手出身の監督は捕手ほどの細やかさはないが、横(内野手同士)の連携を取っているので、総合的な視野で野球を考えられる。二塁手出身の辻も、三原脩(二塁手)、水原茂(三塁手)、川上哲治(一塁手)、西本幸雄(一塁手)といった名監督に連なる資質を持っていると思う。
※週刊ポスト2020年1月17・24日号