南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督を歴任した野村克也氏(84)。今季はかつて指導したことのある5人が監督としてチームを率いることとなった(ヤクルト・高津臣吾、楽天・三木肇、阪神・矢野燿大、西武・辻発彦、侍ジャパン・稲葉篤紀の各氏)。ここではサムライジャパンの稲葉監督について、野村氏が語る。
* * *
侍ジャパンの稲葉篤紀は外野手出身。やはり細かいことに気が回るタイプではないように思う。ただし、侍ジャパンの監督には、実はその欠点があまり響かない。全球団からベストプレーヤーを集めたオールスターチームだから、細かい采配は必要ない。打者は相手投手の右左を気にしない選手ばかりでDH制もある。投手は誰が投げても力があるから、代打や継投もほとんど考えなくていい。
代表監督に求められるのはスター選手たちを気持ちよくプレーさせる能力。その点、稲葉は性格的に申し分ない。高津もそうだったが、稲葉は監督就任が決まったら、発表前に私に連絡してくる律儀さがある。気配りは、人の上に立つために必要な能力だ。あとは優れたヘッドコーチと、投手交代の見定めが上手な投手コーチが入れば問題ない。東京五輪はプレッシャーがかかるだろうが、十分にやってくれるはずだと期待している。
戦略や戦術は時代とともに変わろうとも、プロ野球が“競争”“実力”“勝負”と他人に頼ることができない世界であることは同じ。ハングリー精神がなければ生き残れないし、一流選手が出てこない。一流選手が出ないとライバル関係も生まれない。プロ野球の監督は裏方。表に出るヤツはダメ。功は人に譲れというが、勝ったのは選手のお陰という謙虚な気持ちで采配を振るってもらいたい。
※週刊ポスト2020年1月17・24日号