父の死後、認知症の母(85才)の介護をすることになった55才のN記者(女性)。そんなN記者の母の妹であるSおばさんは少し変わり者だったという。でも夫への愛はひと一倍の仲よし夫婦だ。そんなSおばさんが夫と離れ、グループホームで暮らすことになった。一体どうなった…?
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母は9人きょうだい。今ならテレビで特集される大家族だ。
私の祖父母とともに、女7人、男2人が東京の下町で、小さな家に暮らしていた。同じ親から生まれ、同じ屋根の下に育ってもキャラクターは9人ともまったく違う。「恐ろしいほどの熱密度で息苦しかった」と母は言っていたが、ひとりっ子の私には憧れの家族像だ。
そんな中で母のすぐ下の妹、Sおばさんは“変わり者”キャラ。孤高というわけではないが、群れないし同調しない。たまに親戚が集まると、宴もたけなわの頃決まってSおばさんが怒り出し、ひと悶着起きる。Sおばさんの娘、Aちゃんが「Nちゃんのママはいいな、普通の人で」とつぶやくのをよく聞いたものだ。
でもSおばさんにはかわいい一面もあった。
「Sちゃんは愛想がなくて親戚づきあいも悪いし、すぐ怒る。でも、旦那さんには尽くしているの。大好きなのよ。“愛に生きる女”って感じね、あはははは」と、母はちょっと皮肉っぽく言ったが、Sおばさんが親戚の前で怒る顔と、夫のYおじさんと一緒にいる時の仲睦まじくやさしい表情のギャップに、思わず笑った。
そんなSおばさんも認知症になった。
「父は偉いと思うわ。母はどんどん忘れちゃってわがまま放題。時々様子を見に行く私はイライラしちゃうけど、父はうまく受け止めるのよ」と、Aちゃんの愚痴を聞いていると、母と生前の父の似たような様子が目に浮んだ。
認知症でもの忘れや小さな混乱が出始めても、夫婦で支え合っているとなんとかなってしまう。うるさい娘にいちいち失敗を指摘されなければ、案外穏やかに生活は回っていくのだ。Yおじさんは認知症ではないが、Sおばさんをやさしく支えている。寛容なのか無頓着なのか、年季の入った夫婦には、親子にはない不思議な空気があるようだ。
ところがSおばさん夫婦に大ピンチ発生! Yおじさんが入院することになったのだ。