長野県上田市に「日本一おいしい病院レストラン」と呼ばれる名店をご存知だろうか?
丸子中央病院の最上階9階にあるレストラン『ヴァイスホルン』だ。「地域に開かれた病院」を目指す、この丸子中央病院では、その一環として病院レストランを開放、一般客も利用できる。
営業は平日のみで、日替わりランチ(平日11時~、14時ラストオーダー)と、カフェ・4~5種類の中から選べるデザートセット(平日14時~、16時ラストオーダー)が提供されている。
また、人間ドック受診者向けの特別メニューのランチも人気で、人間ドックの予約はなんと1年半待ちだという。
そんな『ヴァイスホルン』のシェフは、山田康司さん。長野県松本市出身の54才。小さい頃から料理が大好きで、かつてはフランス料理の有名店『クイーン・アリス』の料理長を務めていた。実は、東大を中退して料理人になったという異色の経歴を持つ。
◆“料理の鉄人”のひと言で東大中退を決意
かつてのように料理を楽しむようになった大学時代。人生の決断は早かった。
「このまま数学科にい続けても、この先の人生のイメージがわかないと感じていました。それに、特に理由もなく、料理の道に進むなら20才がタイムリミットだと思っていたので、20才の誕生日に“大学を辞めて、職業として料理を選ぼう”と決心しました」
そんな折、知人を介して、料理系雑誌の編集長をしていた齋藤壽さんと知り合うことができた。
齋藤さんは山田さんの決意を聞き、「大学を出てからでも、料理の仕事がしたければできる」と、東大中退を踏みとどまるよう、やんわりと説得を試みたそうだが、最後は熱意に折れる形で、『クイーン・アリス』のオーナーシェフ、石鍋裕さんを紹介してくれたという。
石鍋さんといえば、伝説の料理番組『料理の鉄人』(フジテレビ系)の初代フレンチの鉄人だ。日本国内はもちろん、本場フランスのシェフたちの間でも高く評価されている。
幼い頃にフランス料理店に連れて行ってもらった経験もあり、フレンチの世界に憧れを持っていた山田さん。一方で、フレンチの持つ「豪華」「高級」というイメージには、不安を抱いてもいたという。
「高い食材を使って高い値段をつけて、カッコつけているだけじゃないか、という疑念もありました。“自分はただ、カッコよさで料理人という職業に憧れているだけなのではないか”と、自分自身に対する不安も抱えていたように思います」
そんな不安を取り払ってくれたのは、ほかならぬ石鍋さんだった。
「開口一番、石鍋シェフは“一見カッコよく華やかに見えるかもしれないけれど、フランス料理は、根底にお母さんが子供に食事を作ってあげる時のようなあたたかさがないと意味がないんだよ”とおっしゃり、あらゆる迷いが吹き飛びました。この人の下で学びたいと思ったんです」
この出会いをきっかけに迷いは吹っきれ、すぐさま東大を中退。石鍋シェフに弟子入りを果たした。石鍋シェフの下での修業は、文字通り一からだった。