警察や軍関係の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回はレバノンに逃亡中のゴーン被告について、刑事たちがホンネを明かす。
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「ゴーンは飛ぶ」
これが、外国人犯罪捜査の経験がある刑事らの共通認識だったようだ。
警視庁には外国人犯罪を専門に扱う刑事がいる。ゴーン被告が保釈されるというニュースが報じられた時、国籍や民族を問わず日本国内で外国人が犯した犯罪を捜査してきたベテラン刑事らが顔を合わせる機会があった。そこにいた全員の意見は同じだった。
「保釈されれば、ゴーンは確実に飛ぶ」
警視庁に限らず、外国人による犯罪を取り調べたことのある者なら、みんなそう考えたはずだと元刑事は断言する。
理由は簡単だ。
「自分の国があるやつは逃げると考えるのが普通です。彼らは日本人ではなく、帰る国がある。日本に居着いていたり、家族全員が日本にいるなら別ですが」
中には「保釈されて3日以内に飛ぶ」と予想した元刑事もいたという。保釈後3日以内というのははずれたが、まんざら当たっていないわけでもなかった。
この予想には「監視がなければ」という条件がついていたからだ。保釈され、監視がなければ3日以内に飛ぶ、元刑事はそう予想したのだ。行動が制限されていなければ、それぐらい迅速に逃亡すると考えたのである。
実際、ゴーン被告がレバノンに逃亡したのは、日産自動車が手配していた警備会社が監視を中止した当日だ。弁護人だった弘中淳一郎弁護士がゴーン被告から委任状を受け、監視をしていた警備会社を刑事告訴すると表明し、業者は監視を中止した。監視がなくなった当日、ゴーンは元刑事の予想通り飛んだのである。
ゴーン被告の保釈は「証拠隠滅のおそれがある」として2度却下された。しかし「無罪請負人」弘中弁護士と「レジェンド」と呼ばれる高野隆弁護士が10の保釈条件を出し、3回目で保釈が許可された。パソコンの使用制限、メールやインターネットの利用禁止、監視カメラの設置などその条件は厳しいと言われたが、元刑事は首を横に振る。
「保釈条件が甘かった。相手は日本人ではない、裁判所はそこをわかっていなかったんです」
裁判所の最近の傾向として、早期保釈が増えていたのは確かだ。またゴーン被告の長期身柄拘束を人質司法と揶揄し、批判する記事も増えていた。だが、早期保釈された被告のほとんどは日本人である。
「保釈条件には、24時間の監視を自費でつけるという項目が必要だった。裁判所は証拠隠滅の中に逃亡が含まれるとは解釈しない。そこが大きな間違いです」
また、「飛ぶなら船だ」とも言われていたという。ゴーン被告が迅速に逃亡する手段として予想されたのは、貨物船だったらしい。
「羽田や横浜あたりの港から出る外国船籍の貨物船に、まぎれて乗り込めばわからない。1000万円も渡せば、話に乗るやつらはいくらでもいる」
貨物船が真っ先にあがったのは、パスポートの問題があるからだ。外国人犯罪者が保釈される場合、保釈条件として弁護士がパスポートを預かるケースがほとんどだ。逃亡しようとする外国人犯罪者の手元にパスポートがなくても、外国船籍の貨物船なら乗船する船員に対していちいちパスポートを確認しないだろう。
ゴーン被告も当然、パスポートは所持していないと思われていた。だがゴーン被告の弁護団は、旅券は透明のケースに入れた状態で被告に携帯させていた。逃亡のお膳立てをしたと言われても仕方がない。
「さすがにプライベートジェットとは思わなかった。船と考えるのが一般人の思考だ。金持ちの考え方は違う」
また、国籍によっても保釈後、自国に逃亡するか否かは異なるという。