国際情報

ヘンリー王子の「フォーカシング・イリュージョン」の結末

待っていたのはシビアな結末(写真/時事通信社)

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、英国王室離脱問題のその後の顛末に言及。

 * * *
 英国王室の決断は驚くほど早かった。ヘンリー英王子夫妻が高位王族からの引退を表明してからわずか10日、エリザベス女王は夫妻の事実上の王室離脱を決めた。それだけヘンリー王子の突然の反乱は、女王の感情を損ねたのだろう。英メディアが「女王が鉄拳を振り下ろした」と報じたくらいだ。

 王室と一般庶民を比較することはできないが、普通に考えれば祖母である女王が怒るのも当然だ。息子や孫が結婚した嫁の言いなりになって造反し、家族から遠ざかり家を出て行くと騒いだら、どんな家でももめるだろう。縁を切って出て行け!となるのがオチだ。

 ヘンリー王子は公務から退き、夫妻は王族の敬称「ロイヤルハイネス」の称号を失うことになった。公費を受け取らず、経済的に自立しながらも王室メンバーとして留まり、公務を続けることを希望していたヘンリー王子にとっては予想外の結末だ。

 19日、ロンドン市内の慈善イベントで講演したヘンリー王子の様子からは、いつものような明るさや快活さは微塵も感じられなかった。「この件に関する限り、ほかに選択肢はありませんでした」と書面に目を落としながら硬い表情を見せると、会場は静まりかえっていく。「ダイアナの次男にも相手が見つかった」という彼の言葉に、聴衆の笑い声が一瞬響くが、本人は二コリともせず淡々と話し続けた。

 とはいえ王室から引退し英国から離れれば、平穏で幸せな生活が送れると考えたのはヘンリー王子自身だ。それが過剰な詮索に苦しみ、王室での生活を窮屈だと感じていたメーガン妃の強い意向であったとしても、王子もそれこそが家族を守り、家族が幸せになる条件だと思い込んだのだろう。つまり、思い込みからくる幻想、「フォーカシング・イリュージョン」といえるかもしれない。

 フォーカシング・イリュージョンとは、「○○さえあれば幸せになれる」、「○○があれば成功するはず」と、ある特定の価値や自身が注目する要因を実際以上に過大評価する傾向のことである。ダイアナ元妃の事故死のトラウマもあり、メーガン妃が叩かれ家族がメディアに追いかけまわされる度に、ヘンリー王子のその幻想はより強くなっていったはずだ。

 講演では、公費を受け取らずに女王と英連邦、軍関係に奉仕したいという希望が叶わなかったことについて「残念ながらそれは不可能だった」と語り、沈鬱な表情を浮かべ視線を落とした。「こういう結果になりとても悲しい」とも述べ、無念さをにじませた。そもそも今回の騒動は、王子がフォーカシング・イリュージョンによって先走ってしまったのが発端だろうが、もう後には引けなかった。

「家族をこれまでの全てから遠ざけて、平和な生活を送れることを願い一歩を踏み出す」と語ったヘンリー王子だが、果たしてそれで本当に望む生活が手に入るのだろうか? 王族に生まれ、王子として生きてきた彼にとって、守られてきた環境から離れ民間人になることへの不安は大きいはずだ。

 幻想は幻想にすぎない。ヘンリー王子夫妻に「こんなはずではなかった」と思う日が来なければいいのだが…。

関連キーワード

関連記事

トピックス

渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《元フジテレビアナ・渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
ソロとして音楽活動5周年を迎える香取慎吾
《ソロで音楽活動5周年》香取慎吾が語った「5人とは違って…」「もっとできるはずなのに」ソロで経験した“挫折” ライブツアーでは「パーフェクトビジネスアイドル」としてファンを沸かせる
NEWSポストセブン
13年ぶりの写真集『ふたたび』(双葉社)を5月30日に発売
小向美奈子 Xで「今年結婚します!」投稿の真意を本人に聞いた 今でも「年に1~2回くらいは求婚される」と語る彼女は“ダーリン”との未来予想図をどう描くのか
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
沖縄を訪問される天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年6月4日、撮影/田中麻以)
《愛子さま 初めての沖縄ご訪問》ブルーのセットアップで母娘の“おそろい”コーデ再び! 雅子さまはくすみカラーで落ち着いた着こなしに
NEWSポストセブン
人気インフルエンサーがレイプドラッグの被害者に(Instagramより)
《海外の人気インフルエンサーが被害を告発》ワインに“デートレイプドラッグ”が混入…「何度も嘔吐し、意識を失った」「SIMカードが抜き取られていた」【オーストリア】
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン