かつては子供の遊びとされてきた「ぬり絵」だが、最近では大人向けのぬり絵も人気。ストレス解消や高齢者の脳みそのケアにも使えると注目されている。
ぬり絵といえばこの絵を思い浮かべる人も多いかと思う。画家・ぬり絵作家の蔦谷喜一(つたやきいち)の作品で、1947年から本格的に『きいちのぬりえ』として販売され、昭和30年代後半頃まで人気を博した。その後も日本文化を象徴する絵として展示会や広告などにも起用されてきたので、70~80代ならど真ん中、そのほかどの年代にも懐かしく愛しい。
『きいちのぬりえ』を中心に国内外のぬり絵を展示する美術館が東京・荒川区にある。開館したのは蔦谷喜一の姪でもある金子マサさん(70才)だ。
「喜一はいわゆるモ・ボ(モダンボーイ)。東京・築地の紙問屋の息子で、銀座に灯りがともる頃、自身もおしゃれをして闊歩していました。戦後のもののない時代にも、喜一の絵の中の女の子はかわいい服にイヤリングや指輪。家のお手伝いのシーンもかわいい格好で。
ぬり絵に夢中になった少女たちは、きっと自分を投影しながら色を選び、夢を膨らませたのでしょう」(金子さん・以下同)
ぬりえ美術館には、少女時代に『きいちのぬりえ』に憧れつつ手が届かなかったという高齢女性たちも来館し、目を輝かせて絵を愛で、館内でぬり絵を楽しんだりもするという。見るとキュンとするような幸せな気分になる。時を超え、世代を超えて変わらない蔦谷喜一の絵の魅力だ。
「資生堂勤務時代、海外で“かわいい”は子供向け。でも美術館開館後、ニューヨーク、パリ、ドイツなどで喜一の展覧会を行い、ようやく“かわいい”の威力が理解されたよう。おそらく誰の心も幸せにする普遍的なものなのだと思います」