中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎は、中国を中心に感染者数が全世界で4591人、死者100人を突破(106人)するなど猛威を振るっている(1月28日現在)。感染力も2003年に広がったSARS(コロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群)を上回るとの推定が出ているが、果たしてどれほど深刻なのか──。ニッセイ基礎研究所・主席研究員の篠原拓也氏が過去のパンデミック(感染爆発)症例をもとにレポートする。
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人類は、有史以前から感染症との闘いを繰り返してきた。衛生環境をよくしたり、診療技術を高めたりして、感染症の拡大防止に努めてきた。しかしいまも、その脅威から完全に逃れることはできていない。
感染症は病気の一種ではあるが、対処方法は通常の医療の枠内にとどまらない。保険会社でも、保険金支払いのリスク管理の一環として感染症の調査が続けられているが、予防時やパンデミックなど感染拡大時の対策は、自然災害に対処する場合と似ている。社会全体での予防の取り組みや、正確な情報の伝達など、人間社会の幅広い領域に関係してくるのだ。
そこで、過去のパンデミックを振り返って、予防や拡大防止のためにどうしたらよいか、みていくことにしよう。
そもそも、パンデミックという言葉は、感染症が世界的に同時期に流行することや、世界的に流行する感染症そのものを指す言葉として用いられる。世界保健機関(WHO)は、感染症の拡大に応じてフェーズ(段階)を設定しており、フェーズ6の「パンデミックが発生し、一般社会で急速に感染が拡大している」状況を、パンデミック期と位置づけている。
◆スペイン・インフルエンザは5000万人もの死亡者が発生
ここで、今回の新型コロナウイルスと同様、過去に肺炎のパンデミックを引き起こしたインフルエンザについてみておこう。
インフルエンザ(流行性感冒)は、20世紀に3回、21世紀にこれまで1回のパンデミックを引き起こしている。特に被害が大きかったのは、1918年に起きたスペイン・インフルエンザのパンデミックで、世界で5000万人が死亡したとされる(最大推計)。これは、1つの感染症による死亡者数としては、史上最大級といわれている(別掲表参照)。
こうしたパンデミックの背景には、都市部の人口密集が進んだことや、鉄道や航路などの交通網が発達して人の移動が活発になったことなどがあると考えられている。
ただし、2009年に流行した新型インフルエンザは、世界全体で見れば死亡者数が多かったが、日本では影響の広がりは限定的だった。これは、感染が拡大しつつあった大阪府や兵庫県で大規模な学校休業(大阪府では全域で高校・中学を全校1週間休業)を実施したことをはじめ、市民の間で季節性インフルエンザ対策と同様の健康管理(うがいや手洗いなど)が徹底されていたためとみられている。