《日本では、気候関連の災害の他にも、南海トラフ地震や首都直下地震などの大地震も予測されており、様々な面から防災対策を進めていくことがますます大切になってきているように思われます》
皇后雅子さまは、昨年12月に発表した56才のお誕生日に際しての文書で、巨大地震発生への警鐘を鳴らされた。確かに私たちは日々、その脅威にさらされているのに、備えを怠りがちだ。雅子さまは“忘れてはいけない”という強いメッセージを発信されたのだ。
地球上のわずか0.28%の国土面積しかないにもかかわらず、世界で起こったマグニチュード6以上の地震の約2割は日本近辺で発生しており、わが国が地震大国であることは言うまでもない。
そんな中、近年、「史上最悪」といわれる被害が想定されているのが、雅子さまも危惧する「首都直下地震」だ。国によると、今後30年以内に70%の確率で起こるとされる。いくつかの直下地震のパターンのうち、首都圏への被害が最も甚大な「都市南部直下地震」が起こった場合、震度7~6強の揺れを地上にもたらす。
有史以来、震度7の地震が発生したことのない東京の被害想定は、死者2万3000人、負傷者数12万3000人、避難者数720万人、経済損失は95兆円にものぼると考えられている。
特に、東京23区のなかでも最も危険だといわれるのだ「下町3区」だ。
◆川より土地が低い「下町」
時代はさかのぼり、およそ7000年前の縄文時代。貝塚の分布をたどると、東京湾から埼玉県の浦和市や川越市、さらに北東部の加須(かぞ)市方面まで、海が広がっていた。「東京下町」の葛飾区、足立区、荒川区は深い海の下にあった。関東学院大学工学総合研究所の若松加寿江さんが解説する。
「縄文時代は今より気候が暖かく、海水面が3m程度高かった。弥生時代以降、地球の気温が下がるとともに海が引いていったのですが、水を含んだ海底の泥が堆積したのが東京下町の軟弱層の実態だといわれています」
そうした軟弱な地盤は「沖積層(ちゅうせきそう)」と呼ばれ、地質学的に最も新しい地層のため、泥や砂がまだ固まっていないという。ゆえに、そのほかの古い地盤と比べて増幅率(揺れやすさ)が高く、液状化による地盤沈下、火災、家屋倒壊などの被害を招きやすいと予測されている。
「その上、下町の軟弱層がある土地は標高が低い。見上げるほど高い堤防があるのは、周囲の土地より川の方が標高が高いからです。つまり、川より低いところに家があり、人が住んでいる。大地震により堤防の下が液状化を起こしたり、堤防の材料そのものが液状化を起こしてひとたび突破口ができてしまうと、一気に浸水する恐れがある」(若松さん)
阪神・淡路大震災(1995年)でも、大阪市此花区(このはなく)の淀川沿いの堤防が液状化により崩壊。幸い、川の水位が低かったため地震水害には至らなかったが、首都直下地震の際は東京湾の津波が河川を遡上してくる可能性もゼロではない。
※女性セブン2020年2月13日号