六本木ヒルズや表参道ヒルズ、虎ノ門ヒルズなど、森ビルは世間の話題を集める街づくりを手がけてきた。大手ディベロッパーの中でも異能集団と呼ばれる森ビルの哲学とは何なのか、辻慎吾社長(59)に訊いた。
──このシリーズでは最初に「平成元年(1989年)に何をしていたか」を伺います。
辻:私は1985年に森ビルに入社しました。その頃進行中だった「アークヒルズ」(1986年竣工)プロジェクトの社会的なインパクトに大きな魅力を感じたからです。
1989年は「表参道ヒルズ」(2006年竣工)の開発に携わっていました。もともとは別のディベロッパーが手がけていた案件で、その会社が開発から降りて代わりに森ビルが出ていくという時期でした。
大きな再開発事業でディベロッパーが変わるのは地権者にとって不安なことですし、当時の森ビルは再開発の実績に乏しかった。そのため地権者の方々に信頼してもらうことから取り組みました。
──当時はバブル全盛期で、不動産は必ず値上がりするという「土地神話」がもて囃されていた。
辻:新入社員の頃は用地買収をしていましたが凄かったですね。1週間で1割も価格が上がった物件もありました。10億円で買えると思っていた物件が、1週間後には11億円ですから。ただ、我々はあくまで再開発を手掛けるディベロッパーであり、転売には興味がありませんので、バブルの頃はあえて様子見することが多かったかもしれません。
──不動産の激動期や表参道ヒルズ開発の経験は今に活きている?
辻:地権者の方々に賛同してもらえない限り、都心を再生していく大きな再開発は成しえません。それらの事業に関わったことで、森ビルの社風でもある、粘り強く人と向き合っていく経験値を積めたと思います。