令和になって初めての「初場所」は序盤から、2横綱が休場し大関たち上位陣も次々と土をかぶる波乱の幕開けだった。そんな中、場所を盛り上げたのは2人の平幕力士。賜杯を手にした「遅咲きのスター」と、マイナス思考に打ち克った「脱ネガティブ力士」の活躍で、大相撲新時代の幕開けを予感する。
令和2年の大相撲初場所で初優勝を飾ったのは、木瀬部屋の前頭17枚目・徳勝龍(33才)。幕内最下位である“幕尻”としての優勝は 2000年春場所の貴闘力以来20年ぶり2人目、奈良県出身力士としては98年ぶりと、誰もが驚いた偉業を達成した「鉄人」だ。
「初土俵から11年間休場はなく、連続出場847回。現役で4位の記録で“鉄人”と呼ばれています。各界では元横綱・稀勢の里、豪栄道などと並ぶ“花のロクイチ組”(昭和61年生まれ)の1人」(相撲関係者)
十両経験が長い苦労人だが、「明るくひょうきんなキャラクターで部屋でも兄貴分的存在」(同前)といい、優勝後のインタビューでも「自分なんかが優勝していいんでしょうか」「優勝はバリバリ意識してました」と場内を笑わせる場面も。
「“もう33才”ではなく“まだ33才”」と前を見据える姿に、平成から令和への“大相撲新時代”が感じられた。
優勝パレードは、場所中の1月18日に急死した近畿大学相撲部時代の恩師・伊東勝人監督の写真を手に“共に”臨んだ。四股名の「勝」も伊東さんの名にちなんだもの。土俵下での優勝インタビューでも「一緒に戦ってくれた」と声を詰まらせた。
興奮の一夜から明けた優勝会見(1月27日)では「夢のようでフワフワしている」と語った徳勝龍。「(伊東)監督がいなかったら今はない」と改めて感謝を語りながらも、「幕」「尻」と書いた色紙を手に大きな笑みも。
徳勝龍から「家で応援して」と言われ、地元・奈良で観戦していた父・青木順次さんは「感無量」と号泣。両国国技館で見守っていた母・えみ子さんは「夢のよう」と感激していた。
◆千秋楽まで優勝を争った正代
14日目まで徳勝龍とともに1敗を守り注目されていたのが、時津風部屋の前頭4枚目・正代(28才)だ。
東京農業大学在籍中は学生横綱に輝き、これまでの最高位は関脇と実績充分な力士だが、「対戦相手を想像すると、緊張して飯も食えなくなる」「誰とも当たりたくない」などのネガティブ発言が話題に。
1敗同士の対決で事実上の“優勝決定戦”となった14日目(1月25日)、徳勝龍との取り組みは突き落としで破れ2敗に。土俵で呆然とし、支度部屋では「自分の弱いところが出た。プレッシャーに弱いんです」とぽつり。
そんな“気弱キャラ”だが、本場所では自身最多の勝ち星を記録。大関・貴景勝をやぶった日は花道をスキップし、本誌・女性セブンの記者にも「これまでは翌日の対戦相手は聞かないようにしていたけど今は取り組みが終わったら聞くようにしています」と話すなど、“キャラ変”の予感も。
場所中には「注目され慣れていない」と吐露するなど正直で素直な愛され力士が今場所の成績を糧に悔しさをバネにしてどう成長するか、来場所からも目が離せない!
※女性セブン2020年2月13日号