人口が密集する地域を地震が直撃した場合、その被害は甚大なものになりやすい。たとえば東京23区の中で「下町3区」と呼ばれる葛飾区、足立区、荒川区のように住宅が多く立ち並んでいる地域の場合、最も危険視されるのが「火災」による被害だ。首都直下地震で想定されている死者2万3000人のうち、約半数の1万6000人は火災による犠牲者だという。
東京大学生産技術研究所教授の加藤孝明さんが話す。
「下町に限らず、住宅が密集している地域は“運命共同体”です。1軒から火が出て、そのまま放置すれば一帯に燃え広がります。大事なのは『初期消火』。自宅やご近所で出火したら、天井に火が回るまでは自力での消火を試みてほしい。そのために、どの家庭も消火器くらいは準備しておくべきです」
阪神・淡路大震災で起きた火災は、停電後に電力の供給が復旧した際に生じた「通電火災」が大きな原因となった。その予防策として「感震ブレーカー」の取り付けも済ませたい。
また、加藤さんは震災時の火災への誤った認識を指摘する。
「『火災旋風』という現象があり、これには、炎が高い柱のように立ち上る『火柱型』と、火災が起こっている場所の周辺で炎を含まないつむじ風が起こる『竜巻型』があります。この2つは混同して報道されることが多く、巨大な火柱が竜巻のように走り回るイメージを持っている人も少なくない。しかし、巨大な炎を保てるほどの燃焼性ガスが市街地周辺から発生することはほぼあり得ない。火柱が動くことはまずないので、むしろパニックになって、やみくもに逃げる方が危険です」
火事の延焼速度は1時間で数十m~数百mとされる。歩行速度よりはるかに遅いため、落ち着いて行動すれば巻き込まれる心配はない。
もう1つ注意すべきは「避難場所」と「避難所」の違い。
「近所の小中学校を“避難場所”と勘違いしている人がいますが、学校は火災などが鎮火したあと避難生活を送る“避難所”です。火に囲まれると輻射熱で死んでしまう可能性がある。逃げる時はもっと大きい公園など、避難場所として指定されているオープンスペースを目指してください」(加藤さん)
同時多発火災が起こった場合、最寄りの避難場所までの道が閉ざされる恐れもある。そのために、複数箇所の避難場所を前もって調べておくことが大切だ。関東学院大学工学総合研究所の若松加寿江さんはこう話す。
「下町の人たちは、日頃から避難訓練を行うなど、23区の中でも防災への意識が高い。リスクが高い土地だからこそ、近隣でコミュニケーションを取ることの必要性を理解しています」
震災は、必ずしも自宅で遭遇するとは限らない。どの町も自分と無関係ではないと心得て、せめて避難場所の把握くらいはしておくべきだろう。
※女性セブン2020年2月13日号