父が急死したことで、認知症の母(85才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才)が、介護の裏側を綴る。今回は家族旅行での一幕だ。
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たまの家族旅行で母と長時間一緒にいると、お互いにストレスが募る。昨年末、温泉宿での団らん中に、母が突然「帰る」と言い出した。気遣う体で何かと口うるさい娘に対し、久々の逆襲に転じた母。一家は騒然、ため息交じりの年越しとなった。
◆「うるさい!」「帰る!」温泉宿で起きた“母の乱”
「明日の朝いちばんで帰る」。母が突然、言い出した。年末の家族旅行の温泉宿で、布団に寝っ転がって紅白歌合戦を見ていた時のことだ。
「私、こんなところで悠長にしている場合じゃない! パパの墓参りに行かなくちゃ」
想定外の理由にも度肝を抜かれたが、年越しの浮かれムードの中、母ひとり無表情だったことにやっと気づいた。
普段の母はサ高住やデイケアではすこぶる朗らかだと評判で、かかりつけ医には毎回「先生のおかげ」と、見事な社交術。私が芝居や絵画展に誘えば、見る先から忘れるのに「今日は楽しかった」と必ず満足げな顔をする。
認知症専門医や介護士さんらが「認知症の人はものすごい努力をして日常を維持しようとしている」と口をそろえるのも、母の様子を見ていればよくわかる。だから私も同じ話に何度でもうなずき、先回りして母が失敗しないように心がけているのだ。
そんな私の対応も板についてきたかな…と油断したところに不意を突かれ、令和元年最後の夜が凍りついた。
うろたえて言い返しそうになるのをグッと堪え、その日を超早回しで振り返った。
久しぶりの遠出に最初は娘と一緒にはしゃいでいたが、やはり85才、宿に着く頃には言葉も減り疲れが見えた。
いきなり母が大音量でテレビをつけるのでちょっと怒り、急かされるように温泉に入って、脱衣所で浴衣がない、足袋がないとちょっとモメた。夕飯の料理のすべてにしょうゆをつけて食べるのでちょっと注意。デザートのいちごにまでしょうゆをつけようとするのでつい「何やってるの!」と声を荒げた。するとついに「うるさいね!」と母が反撃。そんな気まずい夕食の後、例の「帰る」が飛び出したのだ。
◆気まずい思いも失敗も忘れさせてくれる温泉