中国・武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大をうけて、箱根の駄菓子店が〈中国人は入店禁止〉と張り紙したことは物議を醸したが、同様の騒動は各地で起きている。なお、店主はこの件について謝罪し、貼り紙は撤去した。日本政府は、2週間以内に武漢のある湖北省に滞在歴のある外国人などを当面、入国拒否することを打ち出したが、春節でそれ以前に入国していた中国人は数多い。
そうした中、1月下旬にはLCC航空会社のジェットスター・ジャパンが、28日の成田発関西行きの便で、中国人団体客の搭乗自粛を求めた。この団体客が感染者と行動をともにした可能性があったことが理由とし、「苦渋の決断だった」とコメントした。団体客は自粛を受け入れたという。同社広報部の担当者はこう説明する。
「この団体旅客様のお連れ様が新型肺炎に感染し、現在は入院中と聞いております。(入院患者以外の)お客様の中にも、発熱の症状がある方がいらっしゃるとのことでした。そうした状況で、感染の可能性を完全に排除できないため、他のお客様の安全にも考慮したうえ、厳しい判断ではありましたが、やむを得ずご搭乗をお見送りいただくご相談をさせていただきました」
一連の店舗・企業の対応について、感染症学が専門の山野美容芸術短大客員教授・中原英臣氏(医学博士)はこう語る。
「新型ウイルスに感染しないように、武漢では市民が外出せず自宅内に留まっています。個人レベルで感染を防ぐためには、ウイルスに晒される環境に身を置かないことが大切です。個人店での『一律お断わり』を全面肯定するわけではありませんが、新型ウイルスの予防的観点から言えば、理に適っている側面もあると言えるでしょう。人種・国籍差別と同列に断じられない部分がある。
個人レベルで『お断わり』をしても感染者の激増は防げません。肝要なのは、個人レベルではなく、日中両国政府の予防対策です。日本政府はチャーター機で武漢から帰国した人に『2週間の自宅滞在』を要請しましたが、経過観察の点では不十分だったと思います」
箱根の店主の行為には批判があって当然だ。しかし、未知のウイルスという“巨大な敵”を前に、議論すべき問題も、緊急に打つべき対策も山積している。
※週刊ポスト2020年2月14日号