2020年4月から75歳以上を対象に、従来の健康診断に加えて「フレイル健診」が義務化される。フレイルとは「衰弱」を意味する言葉だが、一般にはまだ馴染みが薄い概念だ。
しかし、フレイルを放置すると死亡率や認知症の発症リスクを増加させるなど、怖ろしい事態を引き起こす可能性がある。国内で先駆的に「フレイル外来」を実施する、ふくろうクリニック等々力の山口潔院長が語る。
「フレイルとは『健康と要介護の“間”の状態』を指す概念です。従来は“老化現象”と捉えられ、当事者も特に対策を講じてこなかった症状ですが、放置すると寝たきり、認知症、心不全などの重篤な症状を招いたり、がん発症時の死亡率を高める原因になります」
東京都健康長寿医療センター研究所の研究部長・北村明彦氏は、同研究所による平均7年間の追跡調査の結果、「フレイルの人は要介護認定を受ける確率が約2倍高くなり、死亡率も2.2倍上昇した」という。
フレイルは、大まかに3つの側面に分類される。1つ目は、筋肉量の減少による「身体的フレイル」だ。
「筋肉量が低下すると骨折しやすくなり、これまでできていた運動が困難になります。そうなると横断歩道を渡りきれなくなるなどの症状が始まり、介護者の手助けが必要になったり、最終的には寝たきりにつながる。
2週間の寝たきり状態で失われる筋肉量は、60代の男性が7年ほどで低下する筋肉量に匹敵するとされ、一度始まると悪循環に陥ります。頬や舌などの筋肉量が低下する状態は『オーラルフレイル』と呼ばれ、食べ物が飲み込みづらくなったり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクを高めます」(山口医師)