【著者に訊け】久世番子さん/『よちよち文藝部 世界文學篇』/文藝春秋/1000円
【本の内容】
番子部長と担当編集者が『ハムレット』『老人と海』『ドン・キホーテ』『高慢と偏見』『阿Q正伝』『神曲』など、世界各国の名作文学15作品を読み解くコミックエッセイ。作中の番子部長は実際の久世さんとイメージが重なる。「最初はペンギンを描いていましたが、肌が魚肉ソーセージ色なので、今では何の生きものかわからなくなっています(笑い)」。
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番子部長と、たった一人の部員である担当編集者が文学作品について語り合う「よちよち文藝部」。日本文学篇から8年を経て、待望の世界文学篇が出版された。
「世界文学をまったく読んでいなかったので、海抜ゼロメートル地帯からの挑戦でした。横文字が苦手で、登場人物のカタカナ名前が覚えられないんですよ」
最初に取り上げた『モンテ・クリスト伯』は、登場人物をわかりやすく日本の名前にした明治時代の翻訳を読んで、あらすじをつかんだ。だんだんと慣れていって、
「ドストエフスキーの『罪と罰』が読めたとき、すごい自信がついたんです。これが読めたんだから、もう怖いものはない! そこから先は気が楽になりました」
どれも名作と言われる15作に挑戦したが、出てくる虫に過剰反応したり、3回読んでも面白さがわからなくて、ファンに「ならねーよ」と切り捨てたり、正直すぎる格闘ぶりが描かれている。
そんな中で久世さんが勧めるのが『風と共に去りぬ』だ。女性が好きそうと高をくくっていたら、現代に通じる面白さがあり、男性の担当編集者にも大好評だった。
「映画は恋愛にフォーカスされていますが、原作はもっと重層的な話。恋敵で友達でもあるメラニーとの関係、2人の生き方が中心になっているんですよ。やっぱり読まないとわからないですね」
もう一つのおすすめは『怒りの葡萄』。なぜ葡萄が怒っているのかと思いつつ読んでみると、田舎で生活できなくなって移住する人々の貧しさが、やはり現代的なものに思える感動作だった。
「どちらの作品も喉ごしがよく、ゴクゴク飲めて体にしみわたっていく感じ。世界文学は何回も読むというより、一回目に読んだとき、体に入ってくるかどうかです」
世界文学の峰々に登ってみてわかったのは翻訳の大切さだった。海外の名作は、複数の人が翻訳している場合が多い。
「自分に合わない人の訳を読むと途中で挫折してしまうので、自分に合う翻訳者を探すといいですよ。冒頭の何ページかを読んでみると、合うかどうかわかりますから」
山頂への道は平坦ではないけれど、ルートを選べばフィニッシュできる。見渡す景色は格別だ。番子部長をガイドに、世界文学の峰々に足を踏み入れてみては?
◆取材・構成/仲宇佐ゆり
※女性セブン2020年2月20日号