【書評】『しらふで生きる 大酒飲みの決断』/町田康・著/幻冬舎/1500円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
30年間毎日酒を飲みつづけてきた作家町田康が、ある日突然断酒をはじめて四年前から一滴も飲んでいない。「なぜ酒をやめたのか」と問われると「気が狂っていたからだ」と答えるしかない。
大伴旅人は酒飲みで、酒を讃むる歌十三首を詠んだ。生まれ変ったら酒樽になりたい、というほどの酒讃歌で、それにならって酒を飲んできたのに、「飲酒とは人生の負債である」と気がついてしまった。さあ大変。肉体の暴れを抑制する方法を考えることになる。
禁酒会の連帯で酒はやめられるのか。折口信夫全集第十二巻を読んで考えた。で「肉体の暴れは肉体で縛る」ことにした。グラスに口を付けた瞬間、殴る→蹴る→胸倉を掴んで押し倒す→馬乗りになって烈しく揺さぶる→後頭部がガンガン床にぶつかる→気絶する→物理的に酒が飲めなくなる。
「自分はアホ」と思うこと、がポイントである。「とはいえ、自分を低くしすぎて、虚無に落ちてはいけない」と禁酒するうち、ある精神的変化があらわれた。酒を一滴も飲まなくなって、かえって混乱してくる。