EU離脱により、イギリス国民の暮らしはどう変わるのか。歴史作家の島崎晋氏は、「庶民の食卓」に起こるであろう変化に注目する。
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英国がEUから離脱して一週間が過ぎた。正確を期するならば、交渉のための移行期間に入ったわけで、国営放送のBBCはその状況を「しばらくは出発ロビーに」と表現している。
移行期間は今年いっぱいまでだが、議会での承認手続きも考えると、交渉期間は最長で約9か月しかない。通常なら5年かかる交渉を9か月で済ませ、新たな合意を結ばねばならないのだから大変である。
英国政府としては、EUとカナダ間で締結された自由貿易協定(FTA)と同様に品目ベースで98パーセントの関税を撤廃したいところだが、EUからすれば、拠出分担金を払わずに従来と同等の権利を求める主張に同意するはずもなく、交渉の難航は避けられないだろう。
英国にとってEUは最大の貿易相手。2018年の統計によれば、輸出額の45パーセントはEU向けで、輸入額の53パーセントもEUが占める。一つ具体例を挙げれば、スコットランド名産のスコッチウイスキーの中身は国産でも、瓶はフランス製、コルクはポルトガル製だ。来年以降は瓶とコルクを輸入する際と完成品をEUに輸出する際の二度にわたって関税がかかり、かなりの値上がりが必至である。
それ以上に庶民の生活を直撃するのは、野菜や果物の値上がりだろう。ロンドンを中心とするイングランドは北海道よりも高緯度に位置しており、国産の野菜は種類や量が限られる。EU加盟のどこかから安く買えるという理由から、ビニールハウスを設置してまで自給しようとする動きはこれまでほとんどなかったようだ。そのため、EUとの関税交渉がうまくまとまったとしても、輸送費の増大に加えて「最大25パーセント」と推測される通貨ポンドの下落などが重なり、すべての輸入産物において末端価格の大幅な上昇が避けられない。