どんなに人気の飲食店でも、良い時があれば悪い時もある。苦境が伝えられるファミリーレストラン業界で「一人勝ち」とされてきたサイゼリヤにも逆風が伝えられる。しかし、事態は深刻かというとそうではないようだ。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。
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いつどこの店舗を訪れても、繁盛している。店内は活気に満ちているし、都心の店舗ではピークタイムを外しても行列ができていることもある。みんな大好き「サイゼリヤ」の話である。メディアの”ニュース”で見かけない日はない。ここ数ヶ月で「客離れが止まらない」とか「八方塞がり」という論調の記事を散見するが、内容を見ると数字のあら捜しをして逆張りの持論をぶつような行儀の悪い記事が目立つ。
「客離れ」の記事では「客数の前年比割れ」。「八方塞がり」の記事では「売上の伸び悩み」という切り口だったが、そもそもサイゼリヤは、近年の飲食チェーンとしては並外れて業績がよかっただけで、別に現在の業績が悪いわけではない。絶好調時の業績を引き合いに出して落ち込みを強調したり、なかには、成長市場である中国の店舗と営業利益率を比べる記事まである。我田引水にもほどがあり、品がない印象が強い。
こうしたネガティブ記事にはたいてい「安売りモデルの限界」と「新しいヒット商品の欠如」というお約束の言いがかりがセットになっているが、サイゼリヤは高収入とは言えない層にも「高品質なイタリア料理を提供したい」という哲学があり、経営者も「値上げをするときは、自分が辞める時」と公言しているという。
そもそも国内に1093、海外の411店の合計1500以上の店舗を構える巨大チェーンの経営陣がそうした構造上の課題に気づかないわけがないし、ただ手をこまねいているわけもない。
昨年末に行われたメニュー改定で、そうした外野席からの野次を吹き飛ばし得るメニューが投下された。12月11日に投入された季節メニューの「やわらかお肉とごろごろ野菜のポトフ」と、12月18日にグランドメニュー入りした「アロスティチーニ」である。
まず前者の「やわらかお肉とごろごろ野菜のポトフ」だが、実はサイゼリヤでは毎年冬になると「ポトフ」を投入してきた。2016年「野菜のあったかポトフ」、2017年「あったか具だくさんポトフ」、2018年「野菜とパンチェッタのあったかポトフ」。いずれも599円という値付けだった。
ところが今年の「やわらかお肉とごろごろ野菜のポトフ」は899円。季節商品だから「値上げ」ではないが、例年より価格を上げた。もっともここには仕掛けがあって、メニューに「たっぷり2人前」「シェアしてどうぞ」と書かれているように、ボリューム大幅増。運ばれてきた皿には2本の鶏の手羽、牛スネ肉も塊肉が2つ入っている。野菜だけでなく、肉も「ごろごろ」が2人前だ。
ボリューム感もあり、シェアすれば1人分の金額はリーズナブルになった。実際、発売直後、そこかしこの店舗で品切れになるほど好評だったという。季節商品という絶好のテストの場で一定の結果を出したと言っていい。