ついに日本人にも新型肺炎ウイルスによる死者が出た。いま、日本列島に襲いかかっているのは、「未知の脅威」だ。死者・感染者の数は、日々刻々と増え続けている。
人類が初めて対峙する“目に見えない敵”である以上、その存在に恐怖を抱くのはやむを得ないことかもしれない。自分の命を守ることを最優先に考えるあまり、安全地帯に逃げ込み、利己的な行動に奔る人も現われた。後手後手に回る政府の対応を批判したくなるのも当然だ。
しかし、である。そうしたなかでもなお、感染拡大を防ぐために、身の危険を顧みず、最前線で“見えない敵”と戦う人たちがいることを忘れてはならない。
拠点となる病院で診察・治療にあたる医師や看護師、水際のチェックを受け持つ検疫官、中国・武漢に取り残された日本人を“救出”するためのチャーター機に乗り込んだクルー、洋上でクルーズ船に閉じ込められた乗客たちに一時の安らぎをもたらそうとするスタッフたち──。
一人ひとりの名前が大々的に紹介されるわけではない。まさに「名もなき英雄たち」だ。防護服に身を包み、不安や恐怖を押し殺しながら新たな感染症に立ち向かう彼ら、彼女らの存在があるからこそ、日本人の生命と健康は、ギリギリのところで保たれている。
※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号