変わらず企業の破綻が続き、スタートアップのほとんどが5年もたないと言われる日本。その理由はさまざまながら、最近は経営者自身の「やりぬく力」が不足しているのではないか、というビジネスリーダーたちも多い。ビジネスを始めれば、日々問題が起きてくる。それを解決し、すべてが不可能に見えるときでさえ、その先の一手を見据える力が重要だ。まさにそんな経験をした経営者がいる。一会社員であった彼に、ある日突然降りかかった巨大な責任と40億円の負債。この信じがたいストーリーを新刊『小心者のままでいい 「臆病」「過敏」を強みに変える25の方法』(小学館)という著書にまとめた湯澤剛さんに聞いた。
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居酒屋を複数経営していた父が急逝したとき、私はビール会社に勤めるサラリーマンでした。長男でありながら、父の跡を継ぐ気はハナからまったくなく、当然経営状況もまったく知りませんでした。他に人がいないという理由で渋々帳簿を見せられ、絶句しました。会社の負債は40億円を超えていたのです。
葬儀後メガバンクの人たちがやってくるようになり、事情もまったく知らない私に「いつ返済していただけますか?」と迫ります。それ以外にも毎日大量の請求書が届き、あちこちに「申し訳ありません、できるだけ早くお支払いします」と頭を下げる日々が続きました。
経営する居酒屋では板前が店もあけずに麻雀をしていたり、たばこを吸いながら寿司を握っている様子を見て絶望しました。
でも、私は子どものころから自他ともに認める「小心者」。最近では「HSP(ハイリ―・センシティブ・パーソン)」とも呼ばれるようになった、先天的に過敏で繊細な特質を持つタイプの人間です。荒くれ者のように見えた板前たちに正面きって意見することもできませんでした。
そうこうするうちに、追い打ちをかけるように、店舗火災、食中毒事件などが立て続けに起き、私は心身共に立ち上がれない状態に陥りました。もう、無理かも知れない。何のために生きているかさえもわからない……。そんな思いに押しつぶされそうになっていたとき、ある事件をきっかけに、「これ以上落ちることがないなら、できることから始めてみよう」と意識の転換が起きました。
それからは、自分の特性から冷静に強みを分析するようになりました。「小心者」は、【1】リスク分析に優れ、【2】人の気持ちを察することに優れ、【3】細心なので判断に誤りにくく、【4】まじめで調子に乗らない、という強みを持っています。
この強みを経営に活かしていくため、「自分の感情のモニタリング」「最悪の想定を可視化」「問題の細分化&タスク化」など、25のツール・思考法を練り上げました。
こうして自分の特性を受け入れてからは、こつこつと日々大小の問題解決に励みました。結果16年間で40億円を完済し、今では「小心者だからこそ、この巨大な逆境に打ち克つことができた」と話せるようになりました。