誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、凡走が続いたときの馬券検討についてつづる。
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データの冷徹さを追いかけたせいか、立春を過ぎてもすこぶる寒い。特に府中・中山のパドックの風は首を刺してくる。そこで、今回は騎手の強靭なハートの話で暖をとろうと思います。
彼らのメンタルが羨ましい。私は巨躯の割にはクヨクヨ気質で「俺が悪かったかな」などと、後悔を何日も(1か月くらい!)引きずってしまう。その点ジョッキーは次の騎乗への切り替えがびっくりするくらい早いのだった。
人気馬が凡走した直後、調教師と騎手が対峙する。しょげる騎手を見つめて調教師がうなずく。以心伝心、辛い心情は分かる。ところがその騎手、「すみませんでした」と頭を下げて踵を返した瞬間、他のジョッキーに駆け寄って爆笑し合ったのだ! 切り替えコンマ5秒。さすがの先生も口を開けて呆れたものの、コンマ差の世界を生きているジョッキーはこれでいいのだろう。一般社会では「反省してんのか!」って怒られそうだが、彼らはちゃんと反省している。スピードが違うのである。そこに私は憧れる。
もちろん失敗を引きずる騎手もいるだろうけど、一流どころはまず気にしないらしい。敗れたレース後の騎手コメントは、「分からない」「不利を被った」「反応がイマイチだった」「いつものキレが」「目に見えない疲れが」などなど、お馴染みの文言ながらほぼ自己批判なし。間違っても「すべて私の不徳の致すところ」なんて高倉健さんのような潔いセリフは出てこない。