伝染病の蔓延時には流言飛語が飛び交うものだが、噂の出所にも様々ある。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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新型コロナウイルスの感染拡大で揺れる中国で、いま二つの噂が大きな注目を集めている。
一つは、日本でもよく知られた生物兵器が流出したという説でありる。これは多くの専門家が否定していることなので、ここでは言及しない。実験動物の管理がずさんだったという可能性は残るものの、兵器としてはあまりに頼りないのも確かである。
さて、もう一つは何かといえば、それは今回の新型コロナウイルスがアフリカ豚コレラ(アフリカ豚熱ウイルス感染によるブタの熱性伝染病)と関係しているという説である。昨年一年間、中国を苦しめた問題だけに、人々がこの説に鋭く反応したのは言うまでもない。しかも、噂では「殺処分して埋めた大量の豚をわざわざ掘り返して、激安価格で市場に再び流していた。その過程で新しい病気が生まれた」という説明がついているのだ。
アフリカ豚コレラと新型コロナウイルスを結びつけることは、実際のところ無理があるのだが、中国の人々の耳には極めて説得力のある話として響いたようだ。というのも、埋めた豚を掘り返す、というのはいかにもありそうな話だからだ。
中国には二つ以上の国が併存している、というのは中国を分析する上で忘れてはならない視点だ。極めて高いモラルと一緒に、目を背けたくなるような醜悪な現実も同時に混在する国だからである。そのどちらを見るかで中国の評価は真っ二つに分かれるのだが、問題はたいてい貧困層から生まれてくる。
要するに「カネになる」と思えばそこまでやる人間がいて、「安い」となれば出所も問わず仕入れるルートもあるということを人々は知っているのだ。だからこそ、「やりかねない」との結論に達すのである。今回の新型コロナウイルスとは直接結びつかなくとも、そうした豚肉が出回っていた可能性は、疑惑レベルでは否定的できないのだ。
想像力豊かな中国人の妄想であってほしい話である。