昨年10月、関東甲信越を襲った大型台風で武蔵小杉(神奈川県川崎市)の一部タワーマンションが浸水被害に遭ったのは記憶に新しい。“安全神話”が崩れかけているいま、タワマンの購入リスクも増しているのか。住宅ジャーナリストの榊淳司氏がレポートする。
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2019年10月、関東甲信越、東北地方に甚大な被害をもたらした台風19号。多くの家屋が流失や浸水の被害を受けたが、なぜかメディアに頻繁に取り上げられたのが、神奈川県川崎市の武蔵小杉で内水氾濫によって被災したタワーマンションのニュースだ。
地下3階の電気室が冠水したことで建物への電力供給が途絶。住戸内の電気器具はもとより、エレベーターも使用不能になった。何よりも住民の生活を困難にしたのは、トイレが流せなくなったことであろう。それで各階には簡易トイレが設置された。これは、単純に容器に排泄物を溜めるもの。水道が使えない状態では、手洗いも十分に出来ない。多くの住人は近くのホテルに避難したり、親戚や知り合いの住まいに身を寄せたという。
しかし、考えてみればこの程度のことなど、家を流されたり床上浸水で住戸内が泥まみれになったりした被害に比べれば、いかにも軽微ではないか。
台風通過直後、私のところにメディアから「タワマンは災害に強かったのではなかったのか?」という質問が多数寄せられた。今年に入っても「タワマンに住むことのリスクを改めて考える」的なメディアの企画に何本か協力し、原稿も書いた。
つまり、世間的には「タワマンは安全な住まい」と思われていた「神話」が崩壊しかけているのだ。
すでに昨年6月に刊行された拙著『限界のタワーマンション』(集英社新書)で詳しく解説しているのだが、タワマンというのは安全でも快適でも、あるいは健康的ですらない住まいなのである。場合によっては、自分の健康を害したり、子どもの発育や学習に支障をきたしたりすることすらある。
そういうタワマンに対して、世間の多くの人は未だに憧れを抱いているようだ。現にあの台風通過以来、新築タワーマンションの販売が目に見えて不調になったというようなことはない。
何といっても首都圏には何百というタワマンがあって、台風被害に遭ったのは2棟だけ。それも、深刻な被害は1棟。さらに言えば、川崎市が多摩川への樋門をしっかり管理していれば、防げたかもしれない被害だったのだ。だから、タワマン好きの方々にとっては、「あれは例外的な事故だから」と思いたくなるはずだ。
しかし、実際のところ「起こるべきして起こった」ともいえる。