柔道五輪代表の選考を大きくする左右するグランドスラム・デュッセルドルフ大会(2月21~23日)を待たず、19歳にしていち早く五輪への切符を勝ち取ったのが、女子78kg超級の素根輝(あきら、環太平洋大1年)だ。メダリスト候補たちの苦労を間近で見てきた関係者に取材していくシリーズ「東京五輪へ――私が見たアスリートの素顔」では、朝から晩まで柔道漬けの素根に寄り添う5歳年上の兄にインタビューした。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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東京五輪に向けて代表レースが佳境を迎える中、柔道の男女合わせた全14階級のうち、現時点で代表者が内定しているのは女子78kg超級の素根輝だけだ。素根は身長163cmと最重量級の中では小柄。にもかかわらず、身長176cm、体重135kgと大柄で2017年と2018年の世界選手権を制した元世界ランク1位の朝比奈沙羅(パーク24)を、2019年に入ってから大まくり。1年間、国内では無敗で、初出場となった東京開催の世界選手権で優勝すると、続くグランドスラム大阪も制して朝比奈との代表争いに決着を付けた。
素根の試合を初めて取材したのは、南筑高校2年生で出場した2017年4月の全日本選抜体重別選手権だった。その頃から、素根のかたわらには、誰の目にも「兄妹」とはっきりわかる、よく顔の似た兄・勝(まさる・24)がいた。勝が振り返る。
「高校生の頃、輝には(女子選手の)練習相手がなかなかいなくて。家族としても、困っているのは分かっていたんです。ちょうど自分も専門学校を卒業し、柔道整復師の免許を取得してタイミングも良かった。輝が高校2年にあがる時から、自分の母校でもある南筑高校で妹の練習相手を務めてきました」
素根は久留米市内にある道場・脩柔館に通っていた小学生の頃から男子を含めても断トツの強さを見せていた。南筑高校でも同階級の日本のトップに立とうという素根の練習相手を務められる実力者がいなかった。それゆえ、兄が助け船を出したのだ。