30年以内に70%の確率で発生すると国が発表している「首都直下地震」。震度6強以上の揺れが東京23区を襲うと予想されるが、各区によって揺れや被害の差は出るのだろうか。
東京東部の「下町」は、標高の低さによる水害の危険や、軟弱な地盤による揺れの強さ、住宅密集地の多さによる火災の危険性など不安要素が多い。
今回紹介する東京の北部に位置する4つの区(北・板橋・豊島・練馬)は、北区と板橋区の荒川沿いを除き、ほとんどが「武蔵野台地」の上に位置する。関東学院大学工学総合研究所の若松加寿江さんが解説する。
「海や川沿いなどにある、水分を含む泥などが堆積してできた『沖積低地』に対し、表層が厚いローム層(火山灰質粘性土)で覆われている『台地』は地盤が固い。地震でも、比較的揺れにくいとされています」
練馬区には液状化や火災の危険が高い地域はほぼ見当たらない。しかし、これは決して“安全”を示しているわけではない。武蔵野学院大学特任教授の島村英紀さんが言う。
「一見、安全そうに見えますが、あくまでも下町の格別にリスクが高い地域と比較して危険が少ないというだけです。石神井川沿いは堆積物が多い谷底低地もありますし、埋め立てられた旧河川も多く、首都直下地震ほどの激しい揺れが起これば液状化を起こす可能性は大いにあります」
実際、石神井川沿いには「高野台」や「富士見台」など、“台”とつく地名が多いのだが、明治初期の古地図を見ると、「谷原村」と呼ばれていた。これは水がたまりやすい谷地形であることを意味しており、被害が大きくなることが予測される。
「“光が丘”や“緑が丘”などの地名がついている場所も、必ずしも“丘”とは限らない。飛行場や工場の跡地に団地を造り、イメージを変えるために地名を変更しているケースがよくあります」(島村さん)
もともと、山手線の外側には田畑が広がっており、溜池も多かった。それらを埋め立てて現在の住宅地になっていることがほとんどであり、そういった土地本来の姿は、古い地図を見なければ知ることができない。
さらに、現在の住まいの築年数も危険を知る上で重要なポイントとなる。建築された時代によっては建物の倒壊リスクが高く、台地上であっても油断できないという。早稲田大学理工学術院教授の長谷見雄二さんが話す。
「1981年の建築基準法の改正以前は、住宅の耐震基準がとてもゆるかった。その当時に建てられた住宅は巨大地震の揺れに耐えきれない恐れがあるほか、老朽化により柱が腐朽している可能性があります。1階部分は潰れる危険が高いので、寝室は2階以上にするなど、対策した方がいいでしょう」
戦後、急速に都市化した東京。住人が知らない危険がそこかしこに潜んでいる。
※女性セブン2020年3月5日号