キヤノンから昨年12月に発売されたコンパクトカメラ『iNSPiC REC』(幅約110.5×奥行き約18.5×高さ約45.2mm、約90gフェイスジャケットを含む。カラーは4色。1万3800円)。
液晶画面がない思い切ったデザインでポップなトイカメラと頑丈なアクションカメラの特性を兼ね備えた逸品だ。クラウドファンディングで半日という短時間で完売したカメラの開発物語をお届けする。
昨今、スマートフォンのカメラの性能が上がり、誰もが手軽にきれいな写真が撮れるようになった。2010年くらいまで重宝されてきたコンパクトデジタルカメラを持ち歩く人も少なくなった。特に、若年層はその傾向が強いのではないだろうか。
キヤノンが昨年12月に発売した『iNSPiC REC(インスピック レック)』は、スマホカメラに慣れ親しんだ次世代にもコンパクトカメラの楽しさを伝えたいという思いで作られたカメラだ。
カメラ事業の企画担当である加藤寛人さんが考えたのは、「スマホを持ち出せない場面で使えるカメラ」。
スマホを落としたり水に濡れたりしてしまうおそれのある旅行中や、アクティビティー、スポーツなど、遊びながら使えるカメラを作ろうと考えたのだ。
そのためには、水と衝撃に強いカメラにすることが必要だが、このカメラの大きな特長は、なんといっても液晶画面がないということ。
「スマホカメラは、取り出してロック解除し、カメラアプリを立ち上げて撮るというステップが必要です。そうではなく、このカメラを常に身につけておいて、電源を入れて撮るだけ、という遊びの中でシームレスに使ってほしいと思ったんです。液晶画面がないときちんと撮れているかわからないという声もありますが、そこは『遊び』。だいたいの感覚で撮っておいて、あとからどんな写真になっているか見るという楽しさを重視しました」(加藤さん)
ファインダー代わりに覗き込むスクエアな穴は、カラビナ型になっており、キーチェーンやバッグに簡単に取り付けることができる。
2018年、コンセプトは完成したものの、こうしたポップなカメラを作るのは同社では初めての試み。すぐに発売することはできなかった。
そこで同年6月、アメリカのアナハイムで行われるYouTuberの祭典「VidCon(ビッドコン)」に出品することに。10代の若者が集まる場でリアルな声を聞くことがマーケティングになると考えたのだ。結果は、大ウケ。キャッチーな形やジャケットがカスタマイズできることが特に好評だった。
こうして商品化が決まり、クラウドファンディングを実施すると、およそ半日で予定していた1000台があっという間に完売。メディアでも話題となった。
実際に使った人からは、およそカメラらしくない見た目だからか、写真を撮られている感覚があまりなく、写真に撮られるのが苦手な人でもカジュアルに写ることができるという声があった。
「ファインダーとなるすき間から撮影対象の人と直接目が合うんです。すると、みんな自然と笑顔になるんですよ」と加藤さん。
若者だけでなく、小さなお子さんの初めてのカメラとしてプレゼントする人も多いそうだ。
※女性セブン2020年3月5日号