日本政府は25日、新型コロナウイルスの感染者が急増している韓国南東部の大邱市や慶尚北道の「感染症危険情報」を引き上げ、中国以外の国で初めてとなる渡航自粛を呼びかけた。韓国で何が起きているのか。ソウル在住のジャーナリスト藤原修平氏が報告する。
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もはや韓国では、うかつに外出できない。住宅街の通りを歩くくらいなら大丈夫だが、私がソウルで日常的に利用する地下鉄やバスに乗ったり、街中の小さな食堂で窮屈に昼食をとったりすることは、新型コロナウイルスに感染しかねない行為である。
先週末、ソウルは大気汚染もなく、晴天に恵まれ温かだったが、街中では人出が普段よりもずいぶんと少なかった。韓国の東海岸にある観光地では、いつもなら人ごみをかき分けるように歩かねばならないのに、すれ違う人の数はまばらだった。観光地の市場には、店舗の周辺や排水路などに消毒液を撒く2人の男性の姿があった。
それも無理はない。韓国・中央事故収拾本部の発表によると、18日までは韓国での新型コロナ感染者は30人台とされていたのが、翌19日から加速度的に増え、25日までに893人を超えた。クルーズ船での集団感染を含む日本の国内感染者数を上回る感染が発生したことで、韓国政府は危機レベルを最高の「深刻」とした。
韓国では2015年にMERS(中東呼吸器症候群)の感染が国内に広がり、その経験をもとに防疫体制を整えてきた。そのために今回の新型コロナでも、中国・武漢での感染拡大が報じられた直後から政府や各自治体が対策にかなり力を入れていた。地下鉄の駅には消毒液が置かれ、利用者の多くが手を消毒している姿が見受けられた。また、武漢からチャーター便で韓国に帰国した人も、例外なく特別施設で2週間の隔離生活を送った。
日本で品不足が深刻なマスクについても韓国政府の動きは速かった。5日には、マスクや手の消毒剤の買い占め・売り惜しみを処罰する新制度を導入。違反者には2年以下の懲役または5000万ウォン(約460万円)以下の罰金を科すもので、物価安定に関する法律に基づく4月30日までの時限措置だという。
文在寅大統領は自信をもって対応にあたっていた。13日には大韓商工会議所での経済懇談会の席で、新型コロナの感染をめぐり「近いうちに終息するだろう」と発言。韓国の医学界にも大統領と同じ認識があったようで、ちょうどその頃は日本の和歌山や千葉で国内感染が認められた時期であったが、感染症に詳しい韓国の医者に話を聞いたところ、「日本の防疫体制はなんだかお粗末じゃないか」と批判されたほどだ。