韓国人観光客の足が遠のいたことによる対馬の窮状が伝えられている。対馬の住民はいま、何を思うのか。ソウル在住のジャーナリスト藤原修平氏が対馬を訪問した。
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対馬の島民と韓国や韓国人について話をしていると、相手の表情にだんだん影が差してくることが多かった。そんな時は大抵、「韓国人は仏像を、ねえ」と切り出された。2020年2月初旬、韓国の釜山から高速船で対馬を旅行しに訪れた時の話だ。
「韓国人は仏像を~」とは、2012年10月に対馬で二体の仏像などが韓国人窃盗団に盗難された事件のことを指す。事件の翌年、韓国で犯人グループが逮捕され、韓国当局により仏像二体は無事に回収された。
そのうちの一体は、“対馬一ノ宮”として知られる海神神社(対馬市峰町木坂)の「銅造如来立像」(国指定重要文化財)だった。文化財の不法な流入・流出を防ぐための国際条約「文化財不法輸出入等禁止条約」に則り、2015年に対馬に返還された。
ところが、同じ対馬の観音寺(対馬市豊玉町)から盗み出された高麗時代の「銅造観世音菩薩坐像」(長崎県指定有形文化財)は、話が違った。韓国西部・忠清南道瑞山市にある浮石寺が「倭寇に略奪された仏像だ」と“仏像の所有者”として名乗り出たのである。
これを受け、2013年2月に韓国の大田(テジョン)地裁は、仏像を対馬に返還するかどうかについて、“倭寇に盗まれる前からの所有者として名乗りを上げる者がいるかどうか”を基準に判断した。浮石寺の場合、倭寇が奪っていく前の所有者だった可能性があるので、それを根拠に対馬へ戻すことは不要としたのだ。
盗難事件自体も犯人が韓国人窃盗団だったことで注目を浴びたが、盗難を正当化するかのような大田地裁の判決は、地元・対馬はもちろん日本社会を驚嘆させた。
しかし、対馬の人たちが「仏像を、ねえ」と切り出すとき、返還されないことへの不満だけではなく、そもそも仏像が盗まれたことに強く怒っているように感じた。「普段拝んでいるものを、誰も見てないからと持っていっちゃうなんて、考えられません」と顔をしかめる島民は多い。
今年2月14日付のローカル紙・対馬新聞のトップ記事は〈仏像盗難 あれから8年〉という見出しだった。記事のなかで観音寺の住職は「是非仏像盗難事件のことを思い出してほしい」と訴えている。