名刀を擬人化したオンラインゲーム『刀剣乱舞』などをきっかけにして、女性の間でブームとなっているのが「日本刀」だ。戦前の1939年に発行された岩波新書の『日本刀』(本間順治著)は、2019年10月に76年ぶりに復刊すると全国から注文が殺到し、4か月弱で累計1万5000部を売り上げるベストセラーになった。名刀200本の魅力と歴史を紹介する『名刀大全』(小学館)も、本体価格3万5000円にもかかわらず、売れ行き好調だ。
刀が本当に日常と密接だった時代から1000年以上経つ令和の世で、どこに女性たちは魅入られているのか。刀が辿った数奇な歴史をひもときながら考えていきたい。
◆ダイヤモンドの輝きが一カットごとに変わるのと似ている
奈良県吉野郡東吉野村──降りしきる雪のなか山道を進むと、刀匠・河内國平さん(78才)の鍛刀場が現れる。
安土桃山時代から続く刀鍛冶の家職を継ぐ河内さんは、2014年に刀剣界最高の「正宗賞」を受賞した刀工界の第一人者だ。いまも吉野の山中にこもって朝から晩まで丹念に日本刀を作り続けている。
「日本刀は元来、人を斬るための武器でした。つまり男の世界、戦いの世界そのもの。刀工は、いかに戦いに勝ち抜く刀を作るかを考えながら1000年以上にわたって、『よく切れ、折れず、曲がらず』を追求してきました」
白い雪に覆われた工房で、現代随一の刀匠である河内さんがそう語る。
そもそも日本刀のルーツは中国にある。弥生時代の5世紀頃、漢から日本に銅や剣などがもたらされたといわれている。
日本で鉄刀が武器として用いられたのは平安時代の初期、坂上田村麻呂の蝦夷征伐の際だとされており、その後鎌倉時代に武士の台頭とともに刀の地位は確立された。