日本の名刀を擬人化した「刀剣男士」を集めて育てるオンラインゲーム『刀剣乱舞』がブームのけん引役となり、女性の間で人気となっているのが「日本刀」。
戦前の1939年に発行された岩波新書の『日本刀』(本間順治著)は、2019年10月に76年ぶりに復刊すると全国から注文が殺到し、4か月弱で累計1万5000部を売り上げるベストセラーになっているという。
名刀200本の魅力と歴史を紹介する『名刀大全』(小学館)も、本体価格3万5000円にもかかわらず、売れ行き好調だ。
もともとは戦闘における「最後の砦」だった刀を現代のように鑑賞用として愛でる風習が生まれたのは、南北朝時代だ。皇室が「持明院統」と「大覚寺統」に分かれて対立をしたことで激しい戦乱が起こり、武器としての日本刀の需要が高まった。
日本刀を保存・公開する刀剣博物館学芸員の久保恭子さんはこう解説する。
「それと共に、刀のビジュアルが持つ美しさを味わう“賞翫(しょうがん)”という概念が生まれました。実際、1351年には、刀工の名前や刀の説明などが記された現存最古の刀剣書『龍造寺本銘尽』が作られています。続く室町時代になると刀の見どころである地鉄や刃文の魅力が説明される伝書が残されています。さらに江戸時代になると『極め』と呼ばれる刀の鑑定が盛んになりました」
戦がなくなった江戸時代になると、刀は人を斬るための武器ではなくなり、美術品としての性格をさらに強めた。現在、国宝に指定されている文化財のなかで刀はずば抜けて多い。
「工芸品でいえば陶磁器は14、金工は48、漆工は32ですが、刀剣類は122と圧倒的に数が多い。しかも刀は少しでも手入れを怠ると錆び、乱雑に扱うと傷がつくので大事に保管されてきました。国宝の122振りも今なお燦然と光をはなっています」(久保さん)
漫画『KATANA』の作者・かまたきみこさんは、鑑賞時に持ち手など、外装部分の総称である“拵え(こしらえ)”にも注目するという。
「漆の蒔絵や金工の細工をはじめとして、白銀師、柄巻師、鞘師、金工師と各業界の最高の技術が刀という一点に集結しているのは素晴らしいの一言。加えて、どんな刀工が作ったのかを知るとさらに刀の美しさを強く感じます」
かまたさんのお気に入りの刀工は「虎徹」だ。
「もともとは福井で名の知られていた甲冑師で、50才を過ぎてから江戸に出て刀工に転身して大活躍しました」(かまたさん)
新選組局長の近藤勇が池田屋事件の際に使った刀を作ったともいわれている。
撮影/三谷俊之
※女性セブン2020年3月12日号