新型コロナウイルスの感染が拡大している日本列島。その一方で、感染の有無を診断する検査の実施件数はなかなか増えない状態だ。当初、政府は「1日約3800件の検査が可能」(2月18日)と説明したが、実際にはそれらをフル稼働させず、2月下旬の段階で1日平均で900件の検査しか実施していなかったことが国会での追及で明らかになった。
苦痛を訴える国民、そしてそれを治療しようとする医師たちが、検査を受けようにも検査できる数があまりに少ない──そんな医療崩壊ともいえる事態を招いたのは、政府のミスと怠慢以外のなにものでもない。
検査の本来の目的は「早期発見・早期治療」と「感染拡大の防止」であるべきだ。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんが言う。
「どんな病気であれ、まずは専門家である医師の診断や検査を受けて、できる限り早期に病気であるかそうでないかを診断する。その診断に基づいて治療方針を定め、治療をスタートするべきです。
新型コロナウイルスについてもすべての疑わしい人が検査を受けて、それに基づいて自身の行動を決定すれば、治療にも感染拡大防止にも役立つ。疑わしい患者さんは医師の判断に従って全員を検査できるようにしていれば、感染の拡大をより小規模にできたはずです」
以下のケースを見ればそれが一目瞭然だ。
名古屋市で2月29日、70代女性の陽性が確認された。女性は23日に肺炎などの症状で入院してから症状が悪化する28日まで別の患者3人と同じ病室におり、そこで感染が拡大した可能性がある。もし入院時に速やかに検査すれば、のちのリスクを最小化できたはずだ。
PCR検査は、陽性か陰性かを正しく判定できる「感度」が30~70%とされるため、「精度が低いから検査しても意味がない」との声もある。
しかし、がんでもインフルエンザでもあらゆる病気の検査には限界はあり、「誤診」の可能性を踏まえながら検査結果を尊重し、それに基づいて行動することのメリットは大きい。検査をして陽性者がどの程度いるかを把握することも、今後の診療の大きな指針となる。
何より検査の重要な意義は「パニックを防ぐ」ことだ。ナビタスクリニック理事長の久住英二さんはこう話す。
「重症化のリスクのある人だけを検査すれば当然、結果は重症者の比率が高くなり、“感染すると非常に危険だ!”とのイメージが浸透します。新型肺炎は実際には8割の人が軽症ですむデータがある感染症なので、疑わしい人は全員検査して“軽症の人ばかりです”と一般市民を安心させることが最も大事です。検査をして不安を取り除かないと、いまのパニックは止められません」
実際、諸外国ではさまざまな検査体制が打ち出されている。