無観客での競馬開催となっても馬券の売上がさほど落ちなかった、というところに競馬ファンの熱い思いは詰まっているようにも思える。競馬ライターの東田和美氏が無観客競馬と馬券の相関について考察した。
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レース前に周回するパドックでは不躾な視線や無数のカメラに晒されることもなく、アナウンスや勇ましい行進曲とともに馬場入りしても、スタンドからは拍手も歓声も聞こえてこない。そんな状況は、レースに臨む馬にどんな変化をもたらすのだろうか・・・・「無観客競馬」と聞いて、最初に思ったのはそんなことだった。
3月1日(日)の中山競馬場は、これ以上ないというような競馬日和だった。
調教師と馬主関係者、片隅にある報道エリアに数人の競馬記者やカメラマンがいるだけのパドックを周回する馬は、ふだんと変わりがないように見える。どの馬も観客という存在に気を使うことなく落ち着いているのではないかとも思ったが、馬っ気を出していたり、尻っぱねを繰り返したりする馬もいる。厩務員に甘えている馬もいれば、ひんひん鳴いている馬もいる。
いつもと同じ場内アナウンスで紹介され、返し馬に入ってからも普段と同じ。走り出すまでのルーティンをこなして入る馬や、馬場入りしてすぐ第1コーナーの方に向かう馬もいれば、やや口を割って抵抗するような馬もいた。無人のスタンドを見つめて茫然と立ち尽くすような馬などいない。
スタートのファンファーレが聞こえても拍手は起きないし、ゴール前のたたき合いでも、騎手名を連呼する声は聞こえない。検量室前に戻ってきた騎手と厩舎スタッフが会話をする声が、かなり遠くにいても聞こえたが、確定して高配当が出てもどよめきはない。レースは文字通り粛々と消化されていった。
レース後の騎手たちのコメントも、無人のパドックに出た時の静けさや、最後の直線で歓声が聞こえないことへの違和感こそあったが、レースに影響を及ぼすことはなかったというのが大半。しかし、メインの中山記念を勝った横山典騎手の「大勢のファンの前で勝ちたい」というコメントなどからは、勝った時の寂しさが感じられた。
この日の中山競馬場では昼休みに「新人騎手紹介セレモニー」が行われた。この時点ですでに3人とも初騎乗を終えており、それぞれレースにおける経験不足、実力不足を口にしたが、一様に「緊張はしなかった」と語っていた。それは無観客ゆえだったのだろうか。
2月29日、3月1日の「無観客競馬」でひとつ興味深いデータがあった。2日間全72レース中、1番人気馬がほぼ半数の35レースで勝っている。1番人気馬といえども、昨年1年間を通してみると、3回に1回勝つかどうか。昨年同時期(2月23、24日)は23勝、1週前の土日でも26勝。C・ルメール騎手でさえ、昨年1年間で1番人気馬に騎乗した時の勝率は.351なのだ。
今回特にその差が顕著だったのは第3場という位置づけの中京。2日間で24レース中1番人気馬が半数を超える13勝。昨年同時期の小倉は2日間で1番人気馬はわずか3勝、2月23日などは全敗だった。1週前の今年の小倉開催も土日で5勝だけ。昨年3回行われた中京のローカル開催でも、1番人気馬の勝率は.310程度だった。
ちなみにこの2日間、1番人気馬は連対率、3着内率でも、昨年同時期や1週前をわずかながら上回ったが、2番人気馬、3番人気馬の成績は、大きな違いがみられなかった。また払戻金については、特に堅く収まったとも言えず、馬連の万馬券や10万円以上をつけた3連単は昨年より多いぐらいだった。ただ、1番人気馬の半数は強い競馬を見せた。