30年以内に70%の確率で発生すると国が発表している「首都直下地震」。震度6強以上の揺れが東京23区を襲うと予想されるが、各区によって揺れや被害の差は出るのだろうか。
総人口およそ927万人の東京都23区で、最も人口が多い世田谷区は、「住みやすい町」「高級住宅街」といったイメージが強い。
そんな世田谷区は、台地の表面が数万年前から降り積もった富士山や群馬県の山々の火山灰が固まった『更新統』と呼ばれる地層で覆われており、比較的強固な地盤だとされる。しかし、一概に「安全」とは言い切れない。関東学院大学工学総合研究所の若松加寿江さんが指摘する。
「基本的に地震に強い地区ですが、ピンポイントで“谷”になっている低地が存在し、そういった谷筋からは軟弱な地盤の証拠である『腐植土』が堆積している部分があるとわかりました。水は高いところから低い方へ流れるため、台地の中にある谷へ雨水などが集まり、徐々に地盤を軟弱にしていったのではないかと考えられます」
意外なことに、その軟弱な腐植土層は、自由が丘駅や尾山台駅、用賀駅など「セレブの街」と呼ばれる人気スポット周辺から見つかっている。
そもそも、鉄道や幹線道路を開通する際には、水田などとして利用されていた“人が住みにくい土地”を盛り土して建設するのが一般的だった。だが、都市開発が進むにつれ、利便性から駅近辺に住みたがる人が増加し、結果、地盤の軟弱な場所が人気の住宅地となった経緯がある。
もう1つ注目したいのは、世田谷区から大田区へと流れる多摩川の存在だ。
「二子」「野毛」「等々力」など、多摩川を挟んで、世田谷区側と神奈川県側で同様の地名があることに疑問を抱いたことがある人もいるだろう。
「これは、多摩川の流路が氾濫や工事によって変わったことで地域が分断されたからです。現在の多摩川はまっすぐですが、かつては大きく曲がっていました。旧河道の上は揺れの激しさや液状化リスクの大きさが特に心配されます」(若松さん・以下同)
大田区の多摩川河口付近も危ない。河口付近は上流から運ばれてきた土砂などの堆積物でできた三角形の砂地(三角州)が集合した地盤のため、液状化しやすい。さらに、三角州と三角州の間に流れていた水路を埋め立てて宅地化した場所も混在し、元水路の上の土地はひときわ大きい揺れが生じる恐れがある。
「河口付近は、ほんの数メートル離れただけで被害の激しさに差が出ると予測されます。さらに元禄地震(1703年)をもとにシミュレーションされた被害想定では、六郷橋付近まで津波が遡上する危険があると発表されています」
貴重な水源が、震災時には脅威となるかもしれない。
※女性セブン2020年3月19日号