雲ひとつない晴天には気分が上がり、暗い曇天にはなんとなく頭もぼんやり。これは気圧のせいだけでなく、浴びる光の影響もあるという。
日中の外光、室内の照明に対しては身近にある割に意外と無頓着だ。しかし、体力が衰え始めた高齢者には光の影響が健康を大きく左右し、電球の光色を変えるだけでよく眠れるようになることも。
ここは光について知り、老親、ひいては家族みんなの健康のために照明を工夫したい。照明が健康に及ぼす影響について詳しい照明デザイナーの中島龍興さんに聞いた。
◆朝や昼間は白い照明、夜はオレンジの灯りを
「照明は見るために照らすことだけが役割と思われがちですが、実は人の生活リズムにかかわる重要な役割を担っているのです」と言う中島さん。
朝起きて、日中は活動的に過ごし、夜はしっかりと睡眠を取るという理想的な生活リズム。体力のある中年くらいまでなら、このリズムが多少乱れてもすぐに大きなダメージにはならないが、高齢者には毎日の生活リズムが脳や体の健康に直結するという。
「光が重要なのです。まず朝日を浴びることでコルチゾールという覚醒ホルモンが分泌され、仕事や活動をしやすい状態になる。夕方、日が沈むと、日中抑制されていたメラトニンという催眠ホルモンが出て眠りへと誘う。睡眠が脳や体の健康を左右することは言うまでもありませんが、いずれも光がスイッチになっているのです」
そしてこの流れの一翼を担うのが照明だ。
「朝日も隠れる曇天のときは室内の明かりを追加して、覚醒のスイッチを入れます。また夜になれば照明をつけて昼間と同じ生活ができますが、この照明を工夫しないと、脳は昼間のような活動を続けることになってしまいます」
ここでの工夫とは照明の色だ。色温度(K)とも呼ばれ、覚醒スイッチを入れて活動的に過ごすには白い光がいい。電球や蛍光灯では“昼光色(6500K前後)”“昼白色(5000K前後)”という表示のものが白い光を出す。
日没頃の外光に近いのは“電球色”と呼ばれるオレンジ色の光。覚醒を促すブルーライトは光源により白い光の約3分の1で、脳が眠りの準備を始めるのに最適な照明だ。
「本来の生活リズムのためには、朝・昼間は外光と室内の明るい白い光、夜は、少なくとも就寝1~2時間前は暗めのオレンジ色の光がよいのです。ところがいままではあまり照明が重要視されず、昼夜問わず白い光が使われました。仕事をする事務所やコンビニエンスストアなども夜通し明るく、豊かさの象徴のようにも思われましたが、人々の心身には知らず知らずのうちにストレスが蓄積。不眠やうつ、キレやすい精神状態も、人工的な白い照明の影響が少なからずあるはずです」
ちなみに近年は、照明が健康に与える影響が注目されつつあり、さまざまな検証実験も行われている。
パナソニック ライフソリューションズ社が、日中は明るい光、夜はくつろぎの光と、独自のスケジュールで運用する照明システムを高齢者施設に導入する実証実験を行ったところ、従来の白色照明の環境下と比べて、入居者が夜間に寝ている時間の割合が12%増加、夜勤スタッフの休息時間も46分増加したという。