新型コロナ禍の収束はまだ見えないが、中国と諸外国との間にはいくばくかの“時差”があるのも事実。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
* * *
新型コロナウイルス(新型コロナ)の感染拡大で傷ついた中国は、2月中旬からやっと落ち着きを取り戻しつつある。少なくとも武漢市を含む湖北省を除けば、感染拡大阻止と防疫はある程度コントロールされつつあるとの認識が目立つ。
こうした空気を受けて中国共産党中央は、「一手抓防控一手抓生産」(一方の手で感染拡大阻止をつかみ、もう一方の手で生産をつかむ)のスローガンの下、ウイルス感染対策と経済再生の二つを同時進行で行う方向へと政策の舵を切った。1000万人規模の大都市を封鎖して交通を寸断したのだから、短期的とはいえ経済へのダメージは計り知れない。中国国内からも、「今年前半は捨てるしかない」といった嘆きの言葉も聞こえてくる。
だが、一方では「V字回復」を予測する声は少なくない。というのも中央がやりたくて仕方なかった投資拡大の口実ができたとの見方があるからだ。
またダメージを受けた中国の社会からは、新たなビジネスの萌芽も見当たる。それこそが「非接触産業」である。新型コロナの影響で中国社会には、人と人の接触を最小限にする試みが各所で目立ったが、そのニーズに応えた製品が続々と生み出されている。
広東省では、ウィチャットで注文した後、スマートロッカーでドリンクを受け取る方法が広がり、北京では無接触配送や無人配送車が登場して話題となった。貴州省の省都・貴陽市の団地では、スマート配送ロボットが「無接触配送」を実現した。いずれも2月の中旬から順次市場に投入され始めた。
また非接触ではかつて、エレベーターのボタンの前につまようじが並べられていたことがメディアで取り上げられたが、安徽省ハイテク区では3月頭に、エレベーターの防疫を後押しする非接触型ボタンが登場するという具合に、いろんなアイデアが生まれている。今後世界は、感染症に対して神経質にならざるを得ない。中国の進めるスマート決済をはじめ、こうした製品が急速に世界に広がってゆく可能性は小さくないはずだ。