冬ドラマもいよいよクライマックスに近づいている。医療モノが多い今クールだが、その中で異色の作品が『病室で念仏を唱えないでください』(フジテレビ系)だ。主演の伊藤英明が救急救命医でありながら僧侶でもある役を演じている。過去にも多くあったお坊さんドラマ。その面白さの秘密について、コラムニストのペリー荻野さんが改めて解説する。
* * *
そんなわけで、熱い展開が続くドラマ『病室で念仏を唱えないでください』。主人公の松本照円(照之・伊藤英明)は、あるときは黒い法衣姿の僧侶、あるときは青い診察着の救急救命医と大忙しだ。先日の回では、ひとり部屋に取り残された幼い命を救うため、同僚医師(ムロツヨシ)の不正を見逃して大事なデータを手に入れ、急行する車内で一心不乱に念仏を唱える。大食い大酒のみでエッチな記事も大好き、煩悩もいっぱいありげな照円だが、仕事には一直線だ。
これまでにもお坊さんを主役にしたドラマはいろいろあった。そのキャラクターは実にさまざまだ。
近年でいえば、2015年、山下智久がイケメン僧侶を演じた『5 →9~私に恋したお坊さん』が話題になった。東大卒のイケメン僧侶星川高嶺(山下)は親が薦める花嫁候補がいながら、一方的に英語教室の非常勤講師桜庭潤子(石原さとみ)に恋し、無表情のまま「好きだ」「きれいだ」「結婚して」と言い続ける。
ちなみにこの年、『仮面ライダーゴースト』の主人公タケル(西銘駿)は寺の跡取り息子。タケルの相棒の住職代理(柳喬之)は「ここは拙僧にお任せください」と言いながらズッコケては、ぽくぽくチーン!と音をさせていた。この他、『必殺仕事人2015』のリュウ(知念侑李)も元お坊さんの仕事人、映画では伊藤淳史主演の『ボクは坊さん。』も公開。お坊さん作品の当たり年であった。
二時間ドラマの世界には大物俳優演じる僧侶が次々登場していた。松平健主演の『こちら禅寺探偵局 和尚法元の殺人説法 姿なき炎の犯罪トリックを解く!』では、貫禄十分の和尚が見事な推理を展開。殺人説法って…。和尚ににらまれ、悪人たちもたじたじだ。強烈だったのは、昨年急逝した萩原健一主演の『坊さん弁護士・郷田夢栄』。僧侶にして弁護士の夢栄が少年犯罪の裏を暴くのだが、その調査はすさまじい。仏像の前で怒りまくったり、チンピラと対決したり、クライマックスには犯人に馬乗りになって「全部ここで吐け!!」と大暴れする。とても仏の道にいるとは思えない激しさであった。
人気が高かったのが、浜木綿子主演の『尼さん探偵シリーズ』。このシリーズのサブタイトルはすごい。第一弾『吊り鐘から死体!破戒尼トリオ危機一髪』、第二弾『墓地に幽霊!釣り鐘に死体?色即是空殺人事件』などなど。庵主さま(浜)がゴーン!と鐘をついたら中から死体が落ちてくるわ、墓地にはわざとらしく白装束の幽霊がうろうろするわ。キャーキャー言いつつ、実はそんなことにびくともしない庵主さま。棒を振り回す乱暴者には長い数珠を振り回して立ち向かう。時にはカツラをつけて尾行までする。尼さん探偵に不可能はない!
坊さんドラマの面白さは、穏やかに仏の道を説く職業的イメージとの熱血キャラクターとのギャップだ。何かというと説法をはじめ、毎回顔を赤くして走り回る伊藤英明の「熱」こそが、このドラマのカギなのである。