臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、コロナストレスからの脱却を提唱。
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「五輪は予定通り開催できない」
世論の7割がそう思っているという調査結果が3月16日、共同通信社から出された。今の状況を鑑みれば、国民の多くがそう感じたとしても無理もあるまい。
今や日本国内には新型コロナウイルスよりも“コロナストレス”が蔓延し、世の中の空気は冷え切り、人々は疲弊している。じわじわと拡大し身近に迫ってくるような感覚や終わりが見えない不透明感、自粛要請による閉塞感がコロナストレスを慢性化させつつあるのだ。
コロナストレスを引き起こし、増加させている最大の要因「ストレッサ―」は日々、膨大に流れてくるネガティブ情報だろう。
世界保健機関(WHO)はパンデミックだと宣言し、感染が拡大するイタリアでは全土封鎖、薬局などを除き全店閉鎖。スペインは非常事態を宣言し、外出している国民に治安維持部隊がドローンで自宅待機を呼び掛けている。ハンガリーも非常事態を宣言、フランスでも店舗の営業停止が発表された。
米国ではトランプ大統領が国家非常事態を宣言し、欧州26か国からの外国人の入国を30日間禁止した。東京五輪についても、13日に個人的意見であり「日本が自ら判断することだ」としながらも、「観客なしで開催するより、延期の方がいいだろう」とはっきり述べた。
安倍首相が14日の記者会見で、緊急事態宣言については「現時点で宣言するような状況ではない」と言及し、東京五輪は「感染拡大を乗り越え、無事予定通り開催したい」と発言したといえども、トランプ大統領の発言が耳に残る。日銀の黒田総裁も、景気の先行きについてリーマンショック級にはならないと見ているらしいが、株価はさらに下落した。会社員は在宅やテレワーク、学校は休校、イベントは中止。街からは人の姿が消え、情報番組やニュースではどこで新たな感染者が発生した、クラスターが発生したと感染拡大や売上激減に頭を抱える企業や店舗の状況ばかりを報じている。
『世界は感情で動く:行動経済学からみる脳のトラップ』というのは、神経経済学者のマッテオ・モッテルリーニ氏のベストセラーのタイトルだが、毎日毎日鬱々した環境に置かれ、ネガティブな情報ばかりがそこかしこから流れてくると嫌でも不安が強くなる。それでなくても人には、良いニュースより悪いニュースの方が気になってしまうという心理的傾向がある。
さらに悪いことに、人は不安になればなるほどネガティブな情報に敏感になりやすく、注意がそちらに向いてしまうのだ。聞いていないつもりが、無意識のうちに“コロナウイルス”“感染拡大”“非常事態”などのキーワードを耳が拾ってしまい、気にしないようにしようと思っても、なぜかネガティブな情報ばかりが記憶に残ってしまう。このような意識の偏りを「注意バイアス」という。注意バイアスが強くなればなるほど人々の感情も思考も言動もマイナス方向に向かい、社会は自ずと停滞することになる。
本当に信じていいのかイマイチわからないが、中国では感染のピークは過ぎたと政府が言明し、中国人の生活は落ち着きを取り戻しつつあるという。政府が誘導しているかもしれないという前置きだが、国民の目を感染が拡大する外国へ向けさせ、政府の封じ込めが成功し、共産党を称賛するコメントが増えているとの報道もあった。中国のネットには、欧州と比較して自国の方が安全だという声まであるという。
中国のやり方が良いとは言えないが、このままネガティブ情報ばかりが流れ続ければ世の中の雰囲気はますます暗くなるばかりだ。欧州を中心とする各国の状況を考えれば五輪延期もやむを得ないかもしれないが、コロナストレスが慢性化し日本の社会がガタガタになってしまっては意味がない。私自身にも言えることだが、いい加減ネガティブ情報を自粛し、違う側面に目を向ける時期なのではないだろうか。