中国共産党の人権弾圧を取り上げたレオン・リー監督のドキュメンタリー映画『馬三家(マサンジャ)からの手紙』(3月21日より新宿 K’sシネマほかで全国順次公開)で驚かされるのは、実際に中国で起きた出来事がリアルに映し出されることだ。カメラは中国の町や現地の人々の様子を追い、警察や役人といった当局の関係者が実際に業務する姿を生々しくとらえる。言論の自由がなく、情報が厳しく統制される中国でこんなスリリングな映像をどうやって撮影したのか……と気になる映画なのだ。
なぜそんな撮影ができたのか。その謎を解くカギは、撮影方法と撮影者にある。
映画は、米オレゴン州に住む主婦が中国製の飾り物が入った箱から、1通の手紙を見つけるエピソードで始まる。そこには中国の労働教養所で働く中国人が助けを求める声が綴られていた。
この手紙を書いたのは、北京在住のエンジニア・孫毅(スン・リー)。彼は法輪功の熱心な学習者として中国当局の監視対象となり、2008年2月に遼寧省の馬三家労働教養所に送られ、1日15時間以上の労働や洗脳のための拷問を強いられた。そこで教養所の実態を暴露する手紙を秘かに書き、労働で作製する飾り物に忍ばせたところ、8000キロ離れたオレゴンに届いたのだ。
デビュー作『人狩り』で中国の違法臓器売買を取り上げたカナダ在住のリー監督は中国国内に築いた地下人脈を駆使して教養所を出所した孫を発見し、スカイプで会話した。初めて孫と会話を交わしたときの印象をリー監督が振り返る。
「孫さんは、見た目は予想外に弱々しい学者タイプでしたが、内面の強さを持っていました。自らが受けた拷問について、まるで他人の話をするように冷静に語る姿が印象的でした。彼は『人狩り』を知っていて私を信頼してくれたので、中国共産党の実態をリアルに伝えるドキュメンタリー映画を一緒に作ることを合意しました」
『人狩り』の影響でリー監督は中国に入国できず、撮影は未経験の孫が行うしかなかった。リー監督はスカイプを通じて映像技術を孫にトレーニングした。