〈国民の誰もが、全国どこでも、同じ料金で、同じ水準の必要な医療を平等に受けられる〉
それこそが日本が世界に誇る国民皆保険制度の理念であり、安心の基盤だった。
世界は違う。中国では病院の前に新型肺炎の治療を求める人々があふれ、イタリアでも感染者が殺到して病院が閉鎖され、医療の現場では医師と看護師不足で治療が追いつかず、若い感染者の命を救うために高齢者が後回しにされていく。
そうした光景をテレビで見て、ひそかに“日本でよかった”と胸をなでおろした人も少なくないのではないか。しかし、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、日本の医療制度も崩壊の危機に瀕している。
発熱があって「新型コロナかもしれない」と疑っている人が病院に行くと、検査も診察も受けられずに「4日間熱が続くまで来るな」と追い返される。感染症専門病院では症状のない「濃厚接触者」が優先され、ベッドが足りないから後回しにされる患者が出てくる。そして、持病のある人は病院に通いたくても院内感染が怖くて行けない。
その結果、国内の新型コロナウイルスの感染者が徐々に広がる一方で、多くの病院では外来患者が激減して経営危機に陥り、外来を閉鎖するケースも増えているという悪循環も生じてくる。
いまや国民は誰も、全国どこの病院でも、必要な医療を平等には受けられなくなりつつある。
医療を巡る環境が大きく変わり、これまでの常識が通用しなくなった社会が到来したといえよう。
※週刊ポスト2020年4月3日号