新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、世界中に「入国・入域制限」措置が広がっている。先立つ2月下旬、フォトジャーナリストの村山康文氏は、感染拡大前から予定していたベトナム取材を中止すべきかどうか迷った挙句、取材目的を「ベトナムの新型コロナ対策」に切り替え、入念な感染対策をした上で現地入りを敢行した。ベトナム取材をライフワークとし、50回を超える渡航歴をもつ村山氏が、緊迫のベトナムで目にしたものとは──。
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「お前は中国人か? 韓国人か? 食事が不味くなるから目の前からすぐに消えてくれ!」
2月28日、ベトナム・ハノイの旧市街地区にあるドン・スアン市場。衣料品販売店の前に陣取り昼食をとっていた50代くらいの中年女性が、撮影中の私に近づいてそんな暴言を浴びせてきた。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染を恐れるあまりの発言だった──。
私は、中国・武漢発の新型コロナウイルスが流行の兆しを見せ始める前から、別の取材をする予定でベトナム渡航を決めていた。しかし、2月以降は日本や韓国でも感染者数が増え始め、ベトナムでも感染者が出て、2月13日には北部の村全体(ヴィンフック省ビンスエン郡ソンロイ村の1万600人が隔離)が封鎖される事態となった。
本来ならベトナム入りを断念せざるを得ない状況だが、私にはどうしても今回の渡航を諦めきれない事情があった。もとより、20年に及ぶフォトジャーナリストとしての活動歴で50回の渡航を重ねるなど、私にとって「ベトナム」は主要な取材テーマだ。2003年のSARS、2004~2006年の鳥インフルエンザの感染拡大時にも、私はベトナム入りして感染症についての現地取材を経験している。
実はベトナムは、2003年のSARS感染拡大時、世界で初めて「制圧宣言」を出した国である。当時、それが可能になったのは、陰圧室など感染症対策の先進医療設備を整えたからではなく、患者の早期入院・隔離に加え、病室の換気を徹底して行うなど、地道な院内感染対策に注力したからだといわれている。今回の新型コロナウイルスにおいても、ベトナム政府や国民がどんな対応をするかは、日本の新型コロナ対策を検討するうえでも参考になることがきっとあるはずだ。