臭いのもとは大腸にあった
帰宅しスーツを脱ぎ、夕飯を済ませ入浴。汚れをしっかり落としてサッパリし、リビングに行くと、ソファーにはテレビにくぎ付けになっている娘が。スマホ片手に横に座ると、急に娘がこちらを向き「なんか、臭い」──お風呂に入ったのになぜ? それ、実は体内の血液が“臭ってる”のかもしれない。
毎日きちんと風呂に入って清潔にしているはずなのに、体臭に悩まされる人は、実は少なくない。
「体の臭いには、洗って落ちるものと、洗っても落ちないものがあります。洗って落ちないタイプには『おしっこ』と同じ臭いもあります」
そう説明するのは東海大学理学部化学科の関根嘉香教授だ。下の図のように、いわゆる「加齢臭」や「汗臭」は皮膚の表面で作られるものだから洗えば落とすことができるが、「疲労臭」のような血液から発せられる臭いは洗っても落とすことができないのだ。臭っているのは「アンモニア」だという。
「アンモニアは主に、肉などを食べて分解されたアミノ酸が腸内のアンモニア産生菌によって分解されてできますが、通常ならば肝臓で処理されます。しかし、大量に作られると、あるいは体の疲労やストレスによって肝臓の働きが弱くなると処理が追いつかず、血中に溶けて全身を巡ります。そのため、腸内に悪玉菌であるアンモニア産生菌が多いと、疲労臭が強くなるのです」(関根教授)
「大腸ケア」で臭いだけでなく、健康リスクも減らす
関根教授が解説するように「腸」が体臭まで左右しているわけだが、近年、大腸に関してはさまざまな研究が進められており、大腸の不調がさまざまな健康リスクにつながる可能性が指摘されている。たとえば、肥満、肌荒れ、免疫力低下、認知症などは腸内環境と関連していると考えられており、うつ病の治療に腸内環境改善を行うクリニックもある。
一方で、現代の日本人の大腸は「劣化」していると言われる。たとえば大腸がん患者は増加しており、女性のがん部位別死亡率で1位になっている。潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の患者数もこの30年ほど増えているから、「大腸劣化」は身近な健康リスクと捉えるべきだろう。
そんな大腸劣化に拍車をかけているのは、近年トレンドとなっている「炭水化物抜きダイエット」や「タンパク食ブーム」だ。炭水化物に多く含まれる水溶性食物繊維の摂取量が減ると、腸内で善玉菌のエサ不足となり、悪玉菌を抑え込んで腸を健康に保つ「短鎖脂肪酸」が産生されにくくなるからだ。
偏った食事になることなく、適切な「大腸ケア」をすることが健康リスクを減らす重要なファクターだと言えるだろう。
大腸ケアで若い女性に特徴的な「桃の香り」が
前述の血液から発せられる「疲労臭」も、大腸ケアで改善できることを示唆する研究結果がある。関根教授が語る。
「善玉菌のエサとなる『ラクチュロース』という糖の一種を、2週間、毎日4gずつ被験者11人に摂ってもらいました。すると、腸内で善玉菌であるビフィズス菌が増えただけでなく、皮膚からのアンモニア放散量が有意に減少しました。さらに、若い女性に特徴的な香りといわれる『ラクトン』の放散量も増えるという結果が得られたのです」
ラクトンは「桃の香り」と表現されることもあり、“赤ちゃんのいい匂い”もラクトンによるものだという。
適切なエサをビフィズス菌に与え、増やすことで「疲労臭」が低減され、いい匂いになることが示唆された研究成果だ。
「ビフィズス菌」と「乳酸菌」はまったく別物
ここで出てきた「ビフィズス菌」という名は、みなさんにとってはおなじみだろう。ここで注意したいのは、ビフィズス菌と乳酸菌はまったく別物だということだ。ビフィズス菌は、乳酸菌が生み出すことができない短鎖脂肪酸を生み出すことができるなど腸内で重要な役割を担っているのだ。
ビフィズス菌も乳酸菌もヨーグルトに含まれている印象があるが、すべてのヨーグルトにビフィズス菌が含まれているわけではない。また、ビフィズス菌は加齢によって減っていく傾向があることも知られている。
積極的にビフィズス菌を摂取し、バランスの取れた食事を心がけてビフィズス菌のエサとなる水溶性食物繊維やラクチュロースを摂取すれば、大腸の環境が整って「洗っても落ちない臭い」の悩みが解決することも期待できるだろう。