【書評】『体育会系 日本を蝕む病』/サンドラ・ヘフェリン・著/光文社新書/900円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
日独ハーフ、日本滞在歴20年超の著者が書くニッポン論。著者は日本をこよなく愛していて、だからこそ「“やればできる”という間違った根性論に押しつぶされないで」と日本社会に警告を発しようと決意したのだ。
著者は、日本のその誤った根性論の基本は、学校教育に染みわたる体育会系マインドにあると考える。たとえば小学校の運動会の組体操は最近、ケガの危険性などが指摘されているが、それでも「子どもがやりたがっている」といった理由づけのもと、多くの学校で行われている。
しかしここで「辛いけど、みんなのために、みんなで我慢」することこそが、ブラック企業などの「同調圧力」「連帯責任」にもつながると著者は主張する。こういう環境で中学、高校とすごすうちに、「人権が無視されることが普通」と考えるニッポン人ができ上がってしまう。
それからもうひとつ。日欧を知る著者は、日本社会が「女性がラクになること」にあまりに厳しいと指摘する。食洗機や無痛分娩もダメ、子どものお弁当は手作りで。仕事をするならメガネやスニーカーはNG、あくまできれいに見えるように。こんな圧力の下、日本の女性は世界一「眠らない」と著者は言い、この根っこにあるのも学校時代に叩き込まれた「根性論」だと考える。
こうして半歩、外の世界に出て見ると、ニッポンはこんなにおかしいことだらけなのか、と愕然とする。たしかに「そんな必要ないです」「私にはできません」というひとことが言えないまま働き、結果的にうつ病になって診察室にやって来る人がいかに多いことか。
とはいえ本書は決して“説教本”ではなく、クスリと笑えるイラストやエピソードも満載、各章の終わりには「体育会系度」チェックリストもついている。あなたのために、家族のためにぜひ読んでみてほしい。そしていちばん読ませたいのは、今回の新型コロナウイルスの問題でも「気合いで勝て!」と本気で言っている経営者や政府関係者たちだ。
※週刊ポスト2020年4月3日号